伝えられた先までのルートをスマホで確認しながら
横断歩道の青信号に変わるのを待っていた。
すると、スマホを見ていた視界の隅で何かが落ちたのが見えた。
持ち主らしき人に声をかけたが、
返事はなかった。
ダヒョンは持ち主の肩を優しく叩き、
再度、落としたことを伝えた。
その持ち主はものすごくびっくりした様子で
こちらを見た。
彼が発した言葉は、どこかくぐもっていた。
音の輪郭が曖昧で、「ありがとうございます」と言っているのだと気づくまで、
ほんの数秒の間があった。
けれど、そのたどたどしさに、ダヒョンははっとした。
——ああ、耳が、聴こえないんだ。
彼の口の動き、そして目の奥の揺らぎが、静かにそれを物語っていた。
どう返せばいいのか、分からなかった。
何か言葉をかけるには、自分の声があまりにも無力に思えて、
それでいて、何も言わずに立ち去ることも、酷いような気がして——。
結局、ダヒョンはそっと頭を下げた。
それが、彼女にできる精一杯の応えだった。
そのとき、信号が青に変わった。
周囲の人々が歩き出すのに合わせて、ダヒョンも一歩を踏み出そうとした。
——そのときだった。
後ろから、ふいに腕を掴まれた。
ダヒョンは彼が何か困っていると思い、
スマホで”何かお困りですか?”と表示した。
ダヒョンは、思ってもいなかった質問に少し固まったが、
その後、すぐうなずいた。
ダヒョンは思わず、口で言ってしまい、
焦りながらスマホを取り出そうとした。
すると、彼は首を横に振った。
そう言って少し意味深な言葉を残し、
ソクミンはダヒョンの前から姿を消した。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!