引っ越し当日。
業者のトラックが行き去り、段ボールの山に囲まれた新居のリビング。
前のマンションより一回り広くなったバルコニーからは、今までとは違う角度の夕焼けが見えていた。
雲雀くんが額の汗を拭いながら、私の隣にどさりと座り込んだ。
まだカーテンも付いていない窓から差し込む夕日が、彼の横顔をオレンジ色に染めている。
彼はポケットから、新しく買ったばかりのお揃いのキーケースを取り出した。
中には、この家の鍵が一本ずつ。
二人の手が重なり、鍵が触れ合ってチリンと小さな音を立てる。
雲雀くんの言葉は、以前よりもずっと落ち着いていて、深い愛に満ちていた。
かつて失恋で傷つき、ベランダで背中を丸めていた彼はもういない。私の愛が、そして彼が私を愛する気持ちが、彼をこんなにも強く、優しく変えたのだ。
先輩たちの賑やかなエールを笑い飛ばしながら、私たちは寄り添った。
まだ何も揃っていない、けれど希望だけが詰まった新しい部屋。
段ボールに囲まれた中で交わした、新居での最初のキスは、少しだけ埃っぽくて、でも最高に幸せな味がした。
これからこの場所で、どんな喧嘩をして、どんな風に笑い合い、そして「家族」になっていくのか。
私たちの本当の物語は、この真っ新な床の上から、今始まったばかりだ。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!