第23話

来る?
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2019/01/04 04:06 更新
それから、1ヶ月がたった。


中学生活最後の文化祭は合唱コンクールをしたのだけれど、すごく緊張しながらも一生懸命参加することができたと思う。


ピアノはクセくんが弾いた。

一方ユキくんは、クラスの人みんなが練習にでないと思っていないのに(1年、2年の頃は不参加だったらしい)顔を出していたのが意外だった。


『本番は、その髪なんとかしろ』


谷繁先生にそう言われ黒いスプレー(洗って落ちるやつだ)をふって黒髪になったユキくんは、新鮮で、赤も素敵だけど黒も最高にカッコよかった。


ナナが所属する吹奏楽部の発表会では、引退する3年生がそれぞれにソロパートを担当していて、各々に演奏が終わるたびにお辞儀する様子をみて泣いている親御さんがいた。


美術室に展示されていたヒミコの作品は、独特の感性で描かれた青ベースの抽象画だった。

芸術を語れるほど理解していないわたしも強い衝撃を受け、印象的で。


『ワンマイのCDジャケットのデザインに携わるのが夢』なんて照れくさそうに語っていたヒミコの願いが叶う日がこればいいなと思わずにはいられなかった。


一大行事も順調に終わり


すっかり過ごしやすい気候になった頃、ワンマイのワンマンライブ本番が近づいてきた。


ワンマンライブというのは、単独ライブのこと。

結成当時は複数のバンドやシンガーソングライターさんとの共演(対バンっていうみたい)メインだったのが、お客さんが集まるようになってからは、ワンマンライブが実現したのだとか。


今日は、土曜日。

そのワンマンライブに向けて、スタジオ練習するのだとユキくんから聞いた。
すず
練習頑張ってね!✌
由木
👍
わたしとユキくんの仲は、ファン公認になりつつある。

SNSなどの反応は

『由木くんの方がベタ惚れらしいよ』
『前のよくないウワサはデマだってさ』
『彼女に一途な由木くん推せる……!』
『末永くお幸せに』

と、今では歓迎ムード。


(スタジオかぁ。行ってみたいな)


次のライブでは新曲が披露されるんだって。

クセくんが作詞作曲したものだろう。
由木
来る?
(……え!?)
すず
スタジオに!?
由木
今日は長くとってるから
由木
しばらく覗かせてやるよ
ワンマイのスタジオ練習を見学できるの?

そんなVIP待遇受けていいの……!?
すず
……ほんとにいいの?
クセくんはともかく、イオリくんは邪魔って怒りそう。
由木
いいっつーか
由木
オマエが顔出したら
アイツらのやる気も
あがるだろうしな
すず
そうかな?💦
由木
迎えに行く
すず
何時頃!?
由木
16時半
すず
了解です!!
約束の時間まで、およそ4時間。


なにを着ていこう。

差し入れとか持っていった方がいい!?


「お、お父さん!」


自室からリビングに向かうと、お父さんがノートパソコンを開いていた。

会社から持ち帰ってきた仕事をしているのかもしれない。


「ん?」
「今……大丈夫?」
「なんだ」
「夕方、友達とでかけてくる」
「どこに」


キーボードを打つ手を止め、わたしを見つめる。


「スタジオってところ。駅の近くにあるんだって」
「スタジオ?」
「うん。音楽の、スタジオ」


お父さんが「ああ」と納得した。
どうやら通じたようだ。


「友達が、バンドマンなの」
「友達って。学校の?」
「うん! 練習、見に来ていいって言ってくれて。……行っていいかな? あんまり遅くならないようにするから」


反対されたらどうしようと思っていると。

お父さんの口から出たのは意外な言葉だった。


「そうか。友達できたのか」
「!」
「楽曲コンクール見に行ってやれなかったろ。学校の話を、すずから聞くこともなかったし。急な転校で馴染めていなかったらと心配していたんだが」
「お父さん……」


微笑み、「帰りは迎えに行くから場所を教えておいて」と言われた。


「迎えにきてくれるの?」
「こんなこと言っちゃなんだが、中学生が出入りするには少しはやい気もするな」
「それは……そうかも……」
「でもまぁ、バンドか。懐かしい。父さんもやってたな」


(!?)


「そうなの……?」
「大学時代に少しかじった程度だがな」
「そんなハナシ聞いたことないよ」
「まあ、昔の話だ。社会人になってからは機会もなかったから」
「パートは、なにしてたの」
「ギター」


(ユキくんと同じ!)


まさかの展開に驚きを隠せないでいると、「まだ眠ってるかもな」とつぶやいたお父さん。


「エレキギター!?」
「いや。アコギだな」
「……アコギ?」
「アコースティックギター。木でできた、電気を使わないでそのままで演奏できるやつと言えば伝わるか?」
「シンガーソングライターさんがよく使ってるやつ!」
「そうそう」
「田舎にあるの?」
「もう随分使ってないから音は悪いかもしれないが。あるんじゃないかな」
「へえ」


まさかお父さんと、音楽の話ができるなんて。


「ユキくんは……あっ、ギタリストの男の子は。真っ赤なエレキギター使ってるよ」
「髪と同じ?」
「……え!?」
「俺が気づいてないと思ってるのか。毎朝うちまで迎えに来てる男に」


(バレていないと思ってたのに……!)


「あ、あのね。見た目は不良っぽいけど。優しいし、ギター弾いてるときカッコいいし。メジャーデビュー目指して頑張ってるの」
「すずも。そんな年頃か」
「お父さんっ……!?」
「お前が生まれた日のこと、昨日のように覚えてる。小さな身体、手、足で必死に生きようとしてるすずのこと。なにがなんでも守ってやりたいと思った」


(……!)


「母さんは、守ってやれなかった」
「仕方ないよ。……病気だもん」


仏壇に視線を向けると、笑っているお母さんの写真と目があった。


「すず」
「はい!」
「お前がやりたいこと、父さんは応援していく」
「……ありがとう!」
「でもな。危ないことや、間違ってると俺なりに思うことはハッキリ言っていくからな」
「うん」
「金をやる。飲み物でも買って行ってやれ」
「ありがとう……!」

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