【無惨邸】
その声は柔らかく、指先は頬を撫でた。
優しいはずなのに、その笑みの奥にある影が胸を締め付ける。
そう言いながらも、胸の奥に小さな棘が刺さる。
屋敷の外に広がる風の音も、まるで遠い呼吸のように聞こえた。
香炉の煙がゆらめく。
甘くて重たい匂いが部屋を満たす。
けれどその香りが、今夜は息苦しかった。
喉が焼けるようで、胸が締め付けられる。
窓の外の風が、かすかに木々を揺らした。
立ち上がると、静かに扉を開けた。きっと今夜あの人は帰ってこない。
外に出ることは、禁じられている。
でも────香炉の中の煙よりも、その風の匂いを感じたかった。
夜気が頬を撫でた。
それは冷たくて、でもどこか優しい。
初めて吸い込んだ空気は、少し甘くて少し土の匂いがした。
屋敷の中では決して感じられない、”生きてる”匂い。
涙が滲んだ。
風が髪を撫で、白い房が月の光に溶けていく。
ふと、森の方から微かな光が見えた。
誘われるように、一歩、また一歩と足を進める。
草をふむ音が静かに響いた。まだ知らない世界の香りに包まれながら、私は闇の森へと歩き出した。
なのです!元の話があると結構楽に書けることを知りました՞っ ̫ ⊂՞まだ森に向かって進み出したところなので先は長いですがお付き合い頂けますと幸いです🙇♀️
鬼の血と隊士の魂、二話➕お読みいただきありがとうございました!











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!