屋敷の中で嗅いでいた香の匂いとはまるで違う。
木々の間を抜けてくる風は、どこまでも自由で、優しかった。
月の光が木の葉の隙間から差し込み、草を銀色に染める。
夜露が光って、小さな星みたい。
初めて見る世界に、心が溶けていくようだった。
───そのとき。
《ガサガサッ……》
耳を澄ませると、茂みの向こうから、ぬらりと黒い影が現れた。
捻れたツノ。裂けた口。紫色の肌は赤黒く膨れ上がっている。
息を呑む間もなく、それは口を開いた。
低い声が、森を這うように響いた。
月明かりの中、その顔は人の形をしていなかった。
喉がひゅっと鳴る。
逃げなきゃ、でも足が動かない。
怪物が首を傾げる。
鼻を鳴らし、こちらの匂いを嗅ぐように近づいてくる。
私は一歩、後ずさる。
その瞬間、そいつの表情が変わった。
鬼の腕が大きく振り上げられた瞬間──空気が裂けた。
鋭い爪が肩をかすめ、肉を裂く音が響く。
激しい痛みが走り、服がじわりと赤く染まっていく。
鬼の血と、隊士の魂、三話➕️お読みいただきありがとうございます!
もう一話出ます🫶🫶













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。