それからというもの、僕は毎日、秋野さんの所へ顔を出した。
秋野さんは少し黙ると、ため息をついて僕に言った。
正直、悩ましい条件だ。
茅華は、一度言ったら聞かないタイプだ。
廃部を受け入れると言った以上、そう簡単に意見を変えるとは思えない。
だが、秋野さんの言う通り
これ以上の譲歩はないだろう。
H組の教室を出る。
一旦、茅華に言ってみるか。
そう思ったところでその日の昼休みが終わった。
放課後。
校門の前で茅華を待つ。
あの日以来、一緒に帰ることも、ちゃんと話すこともしていなかった。
歩きながら、秋野鈴香との一件を話す。
すると茅華は大声で笑いだす。
やっぱりダメだったか。
そのまま茅華とは他愛のない話をしてうちに帰った。
ベッドで横になりながら考えていると、いつの間にか眠ってしまった。
夢を見た。
小学校の教室に僕はいた。
黒板に書いてある文字は滲んでいてよく見えない。
自分の腰よりもだいぶ低い位置に机と椅子が並んでおり、他に人は誰もいない。
後ろを向くと壁には小学生らしい字で『夢』と書かれた習字が並んでいた。
振り向くとそこには茅華がいた。
それも、小学生の。
気がつくと机と椅子が自分の腰の位置まで大きくなっている。
いや、自分が小さくなったのか。
茅華とも同じ目線だ。
昔から全く変わってないんだな。茅華は。
茅華が僕の手をつかもうとしたその時、
目が覚めた。
なぜかこの間開いた卒業アルバムのことが、僕は引っかかっているようだ。
しかも、小学生の時の。
また、本棚から卒業アルバムを引っ張り出す。
『私の夢 6年2組 佐藤茅華』
そこに書いてある1つの単語に僕の目は釘付けになった。
水原璃恵子。
この人なら、茅華を説得できるかもしれない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。