第15話

15話
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2023/01/12 11:00
それからというもの、僕は毎日、秋野さんの所へ顔を出した。
秋野鈴香
秋野鈴香
いや、また来たの。もう良いって……。
端谷翔人
端谷翔人
お願いします!
秋野鈴香
秋野鈴香
本当になんで?なんで私なの?
端谷翔人
端谷翔人
秋野さんしかいないと思って。あいつと合うの。
秋野鈴香
秋野鈴香
だから、それがなんでって……
端谷翔人
端谷翔人
お願いします!!
秋野さんは少し黙ると、ため息をついて僕に言った。
秋野鈴香
秋野鈴香
本人を連れてきて。
端谷翔人
端谷翔人
え?
秋野鈴香
秋野鈴香
その部長、本人が頼むんだったら考える。これ以上の譲歩はない。
正直、悩ましい条件だ。
茅華は、一度言ったら聞かないタイプだ。
廃部を受け入れると言った以上、そう簡単に意見を変えるとは思えない。
だが、秋野さんの言う通り
これ以上の譲歩はないだろう。
端谷翔人
端谷翔人
分かった。
秋野鈴香
秋野鈴香
言っておくけど、もし本人が来たって、考えるだけだから。今私は、あんたのしつこさに折れただけだから。
端谷翔人
端谷翔人
うん。ありがとう。
H組の教室を出る。
一旦、茅華に言ってみるか。
そう思ったところでその日の昼休みが終わった。


放課後。
校門の前で茅華を待つ。
あの日以来、一緒に帰ることも、ちゃんと話すこともしていなかった。
端谷翔人
端谷翔人
あ、茅華。
佐藤茅華
佐藤茅華
翔人。どうしたの?誰か待ってるの?
端谷翔人
端谷翔人
いや、久しぶりに茅華と帰ろうかなって。
佐藤茅華
佐藤茅華
え、別に良いけど……。どうかした?
歩きながら、秋野鈴香との一件を話す。


すると茅華は大声で笑いだす。
佐藤茅華
佐藤茅華
あっはっはっは!そんなことしてたの?良いのに!そんな気使わなくて!私は、私の意思で泳ぐことを辞めるの。だから、もう一度水泳部を復活させたいなんてこれっぽっちも思ってない。
端谷翔人
端谷翔人
でも、夢、まだ諦めたくないってヒミツが……。
佐藤茅華
佐藤茅華
あれ、私のだと思ったの?違うよ!違う。
端谷翔人
端谷翔人
じゃあ誰の……。
佐藤茅華
佐藤茅華
あぁ。もう分かんないってば!違う話しよう。
やっぱりダメだったか。
そのまま茅華とは他愛のない話をしてうちに帰った。
端谷翔人
端谷翔人
何かないかなぁ。茅華を動かせるような何か。
ベッドで横になりながら考えていると、いつの間にか眠ってしまった。







夢を見た。

小学校の教室に僕はいた。
黒板に書いてある文字は滲んでいてよく見えない。
自分の腰よりもだいぶ低い位置に机と椅子が並んでおり、他に人は誰もいない。
後ろを向くと壁には小学生らしい字で『夢』と書かれた習字が並んでいた。
佐藤茅華
佐藤茅華
ねぇちょっと!
振り向くとそこには茅華がいた。
それも、小学生の。
気がつくと机と椅子が自分の腰の位置まで大きくなっている。
いや、自分が小さくなったのか。
茅華とも同じ目線だ。
佐藤茅華
佐藤茅華
卒業アルバムに載せる作文、ちゃんと書いた?明日までだからね!
昔から全く変わってないんだな。茅華は。
佐藤茅華
佐藤茅華
やっぱり!どうせそんなことだろうと思った!私が見てあげるから、今日はうちで夜ご飯食べよう!
茅華が僕の手をつかもうとしたその時、
目が覚めた。
端谷翔人
端谷翔人
卒業アルバム。
なぜかこの間開いた卒業アルバムのことが、僕は引っかかっているようだ。
しかも、小学生の時の。
また、本棚から卒業アルバムを引っ張り出す。

『私の夢  6年2組 佐藤茅華』

そこに書いてある1つの単語に僕の目は釘付けになった。
端谷翔人
端谷翔人
思いついたぞ。これだ……。いや、この人だ。
水原璃恵子。

この人なら、茅華を説得できるかもしれない。

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