——その夜。
地下遺跡の灯りは、淡く揺れていた。
外界から切り離された静寂の中、皆それぞれに休息を取っている。
ニコは途中で力尽きたように寝落ちし、ぐらは食べかけの何かを抱えたまま丸くなっている。キアラはその様子を見て小さく笑い、千速は壁にもたれたまま目を閉じていた。
アメリアだけは、まだ起きていた。
「……やっぱり、ズレてる」
誰にも聞こえない声で呟く。
彼女の周囲には、わずかに歪んだ“観測の線”が浮かんでいた。
それは、時間でも空間でもなく、“可能性の軌跡”。
それが——リオナの周囲だけ、不自然に乱れている。
「過去の干渉……?それとも、内側からの歪み?いや......何かが押し込まれてる?」
目を細める。
だが、それ以上踏み込もうとはしなかった。
「……今は、大丈夫か」
小さく息を吐きながら観測を解き、眠りにつく。
——同じ頃、ヴィヴィはまだ起きていた。
眠っているふりをしながら、目だけを細めて周囲を見ている。
視線の先のリオナは、眠っていなかった。
静かに座り込み、何もない空間のただ一点を見つめている。
(……夢、見れへんタイプか)
ヴィヴィは心の中で呟く。
眠れない理由は人それぞれだが——あの目は、少し違う。
“休むことを許されていない”目だ。
しばらくして、リオナがゆっくりと立ち上がる。
足音を極限まで消して、外の方へと歩いていく。
ヴィヴィは迷わなかった。
音もなく起き上がり、能力を使い、その後を追う。
——遺跡のさらに奥。
遺跡の入口。気持ちのいい風が吹き抜け、夜空が広がる。
リオナはそこで立ち止まっていた。
「……っ」
肩が、小さく揺れる。
拳を握りしめ、呼吸を押し殺している。
「……なんで」
かすれた声。
「なんで、今……」
抑えていたものが、わずかに滲む。
だが——それ以上は出さない。
出せない。
その瞬間。
「——“今”やないやろ」
後ろから静かな声が響く。
リオナの身体がびくりと震える。
振り向くと、そこにはヴィヴィがいた。
「……なんで」
「そっくりそのまま返すわ」
軽く肩をすくめるヴィヴィ。
「なんで一人で抜け出してんの」
リオナは言葉に詰まる。
「……起こしたくなかっただけ」
「ほな、うちも起こさんでええやん」
「……」
「でも来たで」
ヴィヴィは隣まで歩いてきて、同じように壁にもたれる。
沈黙。
少しだけ冷たい空気が流れる。
やがて——
「……怖いんだ」
リオナがぽつりと呟く。
ヴィヴィは何も言わない。
「このまま進んだらたぶん……また同じことになる」
「同じことって?」
少しだけ踏み込む。
リオナは目を伏せる。
「……大事なものを壊しちゃう」
短い言葉。
でも、それだけで十分だった。
ヴィヴィは小さく息を吐く。
「なるほどな」
そして——
「でもさそれ」
少しだけ顔を傾けてリオナを見る。
「もう一人で背負う話ちゃうやろ」
「……え?」
「今のリオナは一人やないやろ?」
遠くの方から、かすかに寝息が聞こえる。
ニコの無防備な寝顔も、ぐらの自由さも、千速の静かな支えも、全部そこにある。
「巻き込むかもしれん、って思ってるんやろ?」
図星だった。
リオナの肩が強張る。
「……うん」
「ええやん、巻き込めば」
あっさりと言うヴィヴィ。
「え……?」
「仲間って、そういうもんやろ」
迷いのない声。
「一人で抱えて潰れるより、全員でちょっとずつしんどい方がマシや」
少しだけ笑う。
「その方が、絶対強いで」
リオナは言葉を失う。
そんな考え方、今までしたことがなかった。
「……でも」
「“でも”も”だって”も禁止」
即答だった。
思わずリオナが小さく笑ってしまう。
「なにそれ……」
「ルール」
「勝手に作らないでよ……」
少しだけ、空気が緩む。
その隙間に——
「……助けて、って言ってもいい?」
ぽつりと、落ちる言葉。
ヴィヴィは即答した。
「ええよ」
迷いなんて、欠片もなかった。
「何回でも言い」
リオナは目を閉じる。
胸の奥で、何かがほどけていく。
完全じゃない。
まだ痛い。
まだ怖い。
でも——
「……助けて」
小さく、でも確かに言えた。
ヴィヴィは小さく頷く。
「任せとき」
その一言が、やけに頼もしくて。
リオナは、今度こそ少しだけ力を抜いた。
——遺跡の奥。
小さな約束が、静かに交わされた。
それはまだ、誰にも知られない。
けれど確かに——
リオナの罪の意識を、微かにでも和らげてくれていた
なんじゃこりゃ
今日まだ更新すると思われる













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!