第118話

百八話
46
2026/04/20 02:47 更新
——その夜。

地下遺跡の灯りは、淡く揺れていた。

外界から切り離された静寂の中、皆それぞれに休息を取っている。

ニコは途中で力尽きたように寝落ちし、ぐらは食べかけの何かを抱えたまま丸くなっている。キアラはその様子を見て小さく笑い、千速は壁にもたれたまま目を閉じていた。

アメリアだけは、まだ起きていた。

「……やっぱり、ズレてる」

誰にも聞こえない声で呟く。

彼女の周囲には、わずかに歪んだ“観測の線”が浮かんでいた。

それは、時間でも空間でもなく、“可能性の軌跡”。

それが——リオナの周囲だけ、不自然に乱れている。

「過去の干渉……?それとも、内側からの歪み?いや......何かが押し込まれてる?」

目を細める。

だが、それ以上踏み込もうとはしなかった。

「……今は、大丈夫か」

小さく息を吐きながら観測を解き、眠りにつく。


——同じ頃、ヴィヴィはまだ起きていた。

眠っているふりをしながら、目だけを細めて周囲を見ている。

視線の先のリオナは、眠っていなかった。

静かに座り込み、何もない空間のただ一点を見つめている。

(……夢、見れへんタイプか)

ヴィヴィは心の中で呟く。

眠れない理由は人それぞれだが——あの目は、少し違う。

“休むことを許されていない”目だ。

しばらくして、リオナがゆっくりと立ち上がる。

足音を極限まで消して、外の方へと歩いていく。

ヴィヴィは迷わなかった。

音もなく起き上がり、能力を使い、その後を追う。

——遺跡のさらに奥。

遺跡の入口。気持ちのいい風が吹き抜け、夜空が広がる。

リオナはそこで立ち止まっていた。

「……っ」

肩が、小さく揺れる。

拳を握りしめ、呼吸を押し殺している。

「……なんで」

かすれた声。

「なんで、今……」

抑えていたものが、わずかに滲む。

だが——それ以上は出さない。

出せない。

その瞬間。

「——“今”やないやろ」

後ろから静かな声が響く。

リオナの身体がびくりと震える。

振り向くと、そこにはヴィヴィがいた。

「……なんで」

「そっくりそのまま返すわ」

軽く肩をすくめるヴィヴィ。

「なんで一人で抜け出してんの」

リオナは言葉に詰まる。

「……起こしたくなかっただけ」

「ほな、うちも起こさんでええやん」

「……」

「でも来たで」

ヴィヴィは隣まで歩いてきて、同じように壁にもたれる。

沈黙。

少しだけ冷たい空気が流れる。

やがて——

「……怖いんだ」

リオナがぽつりと呟く。

ヴィヴィは何も言わない。

「このまま進んだらたぶん……また同じことになる」

「同じことって?」

少しだけ踏み込む。

リオナは目を伏せる。

「……大事なものを壊しちゃう」

短い言葉。

でも、それだけで十分だった。

ヴィヴィは小さく息を吐く。

「なるほどな」

そして——

「でもさそれ」

少しだけ顔を傾けてリオナを見る。

「もう一人で背負う話ちゃうやろ」

「……え?」

「今のリオナは一人やないやろ?」

遠くの方から、かすかに寝息が聞こえる。

ニコの無防備な寝顔も、ぐらの自由さも、千速の静かな支えも、全部そこにある。

「巻き込むかもしれん、って思ってるんやろ?」

図星だった。

リオナの肩が強張る。

「……うん」

「ええやん、巻き込めば」

あっさりと言うヴィヴィ。

「え……?」

「仲間って、そういうもんやろ」

迷いのない声。

「一人で抱えて潰れるより、全員でちょっとずつしんどい方がマシや」

少しだけ笑う。

「その方が、絶対強いで」

リオナは言葉を失う。

そんな考え方、今までしたことがなかった。

「……でも」

「“でも”も”だって”も禁止」

即答だった。

思わずリオナが小さく笑ってしまう。

「なにそれ……」

「ルール」

「勝手に作らないでよ……」

少しだけ、空気が緩む。

その隙間に——

「……助けて、って言ってもいい?」

ぽつりと、落ちる言葉。

ヴィヴィは即答した。

「ええよ」

迷いなんて、欠片もなかった。

「何回でも言い」

リオナは目を閉じる。

胸の奥で、何かがほどけていく。

完全じゃない。

まだ痛い。

まだ怖い。

でも——

「……助けて」

小さく、でも確かに言えた。

ヴィヴィは小さく頷く。

「任せとき」

その一言が、やけに頼もしくて。

リオナは、今度こそ少しだけ力を抜いた。

——遺跡の奥。

小さな約束が、静かに交わされた。

それはまだ、誰にも知られない。

けれど確かに——

リオナの罪の意識を、微かにでも和らげてくれていた
なんじゃこりゃ


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