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今日は久しぶりのオフだった。
目覚ましをかけなくてもよくて、任務の連絡も来ない。
硝子ちゃんがそう言うくらいには、滅多にない日だった。
そんな貴重な休日をどう使うかというと──
なぜか私たちは、映画館に来ていた。
***
隣で五条くんが、気の抜けた声を出す。
五条くんはいつもこうだ。テンションが高いか、完全にオフかの二択。
私は壁のポスターを指さした。
そこには、今話題の恋愛映画。淡い色合いのビジュアルが目を引く。
夏油くんが穏やかな声で言う。
硝子ちゃんが、ガラケーから目を離さずに言う。
五条くんの声が、ワンテンポ遅れて落ちた。
やけに力の入った声。
夏油くんと硝子ちゃんが、同時にため息をついた。
***
チケットの飲み物を買って、シアターに入る。
席は、夏油くん・五条くん・私・硝子ちゃんの順。
暗くなって、映画が始まる。
スクリーンでは、切ない音楽、すれ違う男女、雨のシーン。
……なのに。
意識が、じわじわ遠のく。
気づいた時には、私は五条くんの肩に寄りかかっていた。
あったかくて、ちょうどよくて。
そのまま、意識は深く沈んでいく。
***
──その頃、隣の席では。
五条の体が、目に見えて強張った。
身動きが取れない。
肩に伝わるあなたの下の名前の体温。
規則正しい寝息。
※誘われてません
※爆睡してるだけです。
一方その頃のあなたの下の名前は───
夢の世界で、なぜかチュロスを食べていた。
***
エンドロールが流れる。
硝子ちゃんの声が聞こえる。
慌てて前を見ると、スクリーンは真っ暗だった。
隣を見ると、なぜか顔が赤くなっている五条くんがいた。
──結局その日。
映画の感想を語れなかったのは、
爆睡していた私と、
なぜか硬直(?)していた五条くんの二人だけだった。
そして私はまだ知らない───
その「最悪に集中できなかった映画」が、
五条くんにとっては、人生で一番心臓に悪い上映時間だったことを。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。