呼び出した瞬間──
鬼の一体が、呪霊本体の前に飛び出した。
七海くんの呪具と、玉犬の攻撃を、身を投げ出すように受け止める。
状況がよく分からず、困惑してると七海くんが口を開く。
慌てて手の甲を見る。
『3』だった数字が──『2』に変わっていた。
理解が、遅れて追いつく。
鬼が、歪んだ声を立てて笑う。
鬼の動き、呪霊本体との距離、減ったカウント。
頭の中で、情報だけが次々と重なっていく。
ふと、別の考えが割り込んだ。
ここ1週間、ずっとこんな事ばかり考えている。
考えれば考えるほど、自分の存在価値が分からなくなってくる。
そんなことを考えている場合じゃないのに。
自分でも分かっているのに、思考が止まらない。
七海くんの声が、遠ざかっていくような気がした。
呼ばれていることに気づいた瞬間───
視界が、突然揺れた。
七海くんに、強く突き飛ばされたのだ。
体勢を立て直した瞬間、見えたものに、息が止まる。
七海くんが──
私の代わりに、鬼に触れられていた。
遅れた声が、ようやく喉から出た。
返事を待つ余裕はなかった。
私はそのまま背を向け、地面を蹴って走り出す。
──振り返らなかった。
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七海の背後で、加賀実の声が静かに響く。
七海は、絡まってきたツタに抵抗する気配もなく、
前を見据えたまま答えない。
しばらくの沈黙。
それから、七海は短く息を吐いた。
その言葉を最後に。
七海の身体は、呪霊本体から伸びたツタに絡め取られ──抵抗する間もなく、そのまま呪霊の腹の中へと引きずり込まれていった。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!