佐神side
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夢を見ていた気がする。
あれは多分、高校生の頃の。
職員室に行けば、いつだって先生が笑って迎えてくれていたのに、突然俺の目の前から消えたあの日の夢。
なんで。
何も言わずにいなくなったんだよ。
初めて誰かから俺の曲を褒めてもらえたからか、先生の姿を見つけるたびに、なんか嬉しくて。
無意識に、いつも目で追っていて。
先生のいる学校に行くことが楽しみになっていて。
だから先生が学校を辞めたと聞いた時、自分が思っていた以上に悲しくて、ムカついた。
ぼんやりと目を開けると、いつもの部屋の天井が見えた。
もう夕方なのか、部屋はだいぶ暗い。
体調も戻った気がしてひと息つくと、右手が何かに触れているのに気がついて視線を移した。
なん、で。
こいつが、ここにいるんだよ。
俺のベッドに寄り掛かるようにして眠る姿よりも、驚いたのは、お互いにしっかりと繋がれた右手で。
それを見た瞬間、完全に思考が停止して何も考えられなくなった。
繋がれた右手をどうすることも出来てなくて固まっていると、相手も目を覚ましたのかパチリと目が合った。
まだ体調悪い?と俯き加減の俺の顔を心配そうに見つめる瞳に、はっと我にかえる。
思ったよりも大きな声が出て、相手もそれに反応して手元に視線を移すと、驚いたように目を見開いた。
俺の視線に気まずそうに、ゆっくりと離そうとする手を、思わずぎゅっと握って引き止めた。
無意識だった。
何やってんだ、俺。
引き止める気なんて、全然なかったのに。
そりゃこいつも驚くだろ。
だけど、なんか。なんていうか。
さっき見た夢をまだ引きずっているのか、手を離したら、こいつがまたどこか行ってしまいそうな気がして。
なんて、自分でも意味分かんねーけど。
そこまで言って、こいつの細くて冷たい手を握る指先に力が入る。
目が見れなくて、視線が揺れる。
なんとなく落ち着かない空気が流れて、手にうっすらと汗をかいてきたのが分かる。
握ったのはいいけど、なんか、何を話したらいいかとか、そんなの分かんねーし。
なんで。
なんでこいつはいつも、俺が欲しい言葉をくれるんだろう。
真っ直ぐ目を見て。
なんでも受け止めてくれるような顔をして。
こいつが大人だからなのか、それとも俺がまだちゃんと大人になりきれていないからなのか。
嬉しいような。でも悔しいような。
俺はまだ何一つだって、こいつに返せていないのに。
繋がれた手が物足りなくて、掬いとるように指先を絡める。
戸惑う声を無視して、さらに強く握りしめた。
突然バンと扉が勢いよく開いて、テンション高めの有起哉が入ってくる。
すぐに俺たちの姿が目に入ったのか、素っ頓狂な声を上げた有起哉に、他のメンバー達も身を乗り出してきた。
繋いでいた手をサッと離す。
あーーーー、くそ
吐き捨てるように言うと、まだ納得してないような顔の有起哉たちに、宝がまあまあと言いながらに間に入る。
取ってつけたような笑みを浮かべて「じゃあ私は夕飯の準備もあるし、退散するね!ハハ」と言いながら腰を上げたタイミングで、目が合った。
気まずくて思わず目を逸らす。
相手も俺と顔を合わせないように不自然な体勢のまま出て行った。
ばたんと扉が閉まる音がして、どっと体の力が抜ける。
思わずため息が出た。
なんなんだよ。
何がしたいんだよ、俺。
心配するなるを無視して頭まで布団を被った。
意味分かんねえ。
自分が一番。分かんねえ。
あいつに触れた指先をぎゅっと握りしめて、無意識にそれを口元に持っていく。
あいつを思い出して体中熱くなるのは、ただの熱のせいで。
それ以外に理由なんて、ない。
なのに頭から離れなくて。
忘れようと無理矢理目を閉じたけど、それも無理で。
結局それから一睡も出来なかった。
end.











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。