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第3話

全部熱のせい 後編
3,909
2022/11/12 13:37 更新



佐神side





❇︎❇︎❇︎




夢を見ていた気がする。



あれは多分、高校生の頃の。



職員室に行けば、いつだって先生アイツが笑って迎えてくれていたのに、突然俺の目の前から消えたあの日の夢。




なんで。


何も言わずにいなくなったんだよ。





初めて誰かから俺の曲を褒めてもらえたからか、先生アイツの姿を見つけるたびに、なんか嬉しくて。



無意識に、いつも目で追っていて。



先生アイツのいる学校に行くことが楽しみになっていて。




だから先生アイツが学校を辞めたと聞いた時、自分が思っていた以上に悲しくて、ムカついた。



佐神弾
…ん、



ぼんやりと目を開けると、いつもの部屋の天井が見えた。


佐神弾
夢か…



もう夕方なのか、部屋はだいぶ暗い。


体調も戻った気がしてひと息つくと、右手が何かに触れているのに気がついて視線を移した。


佐神弾
なっ……



なん、で。


こいつが、ここにいるんだよ。



俺のベッドに寄り掛かるようにして眠る姿よりも、驚いたのは、お互いにしっかりと繋がれた右手で。



それを見た瞬間、完全に思考が停止して何も考えられなくなった。


あなた
…っやば!私まで寝ちゃってた…!



繋がれた右手をどうすることも出来てなくて固まっていると、相手も目を覚ましたのかパチリと目が合った。



あなた
あ…佐神くん、起きてたんだ…。ごめん寝るつもりじゃなかったんだけど
佐神弾
……
あなた
体、どう?ちょっとは良くなった…?
佐神弾
……
あなた
佐神くん?



まだ体調悪い?と俯き加減の俺の顔を心配そうに見つめる瞳に、はっと我にかえる。


佐神弾
……手
あなた
え?
佐神弾
手!!!!!!
あなた
え?!



思ったよりも大きな声が出て、相手もそれに反応して手元に視線を移すと、驚いたように目を見開いた。



あなた
あ、ご、ごめん!
佐神弾
な、なんで……手、
あなた
いやこれは、どっちかっていうと佐神くんからっていうか、なんというか…
佐神弾
あ?
あなた
いや、なんでもない、です


俺の視線に気まずそうに、ゆっくりと離そうとする手を、思わずぎゅっと握って引き止めた。




無意識だった。


あなた
え、あ、…佐神、くん?



何やってんだ、俺。




引き止める気なんて、全然なかったのに。




そりゃこいつも驚くだろ。




だけど、なんか。なんていうか。



さっき見た夢をまだ引きずっているのか、手を離したら、こいつがまたどこか行ってしまいそうな気がして。




なんて、自分でも意味分かんねーけど。



佐神弾
…あんたが言ったんだろ
あなた
うん?
佐神弾
体調悪い時は、誰かに…あ、甘えたり、していいって…
あなた
あ、あー…、うん、言った、ね
佐神弾
だ、だから…



そこまで言って、こいつの細くて冷たい手を握る指先に力が入る。



佐神弾
あと…、少しだけって、いうか



目が見れなくて、視線が揺れる。


あなた
…えっと
佐神弾
…ダメなのかよ
あなた
ダメじゃないよ!うん。ダメじゃ…



なんとなく落ち着かない空気が流れて、手にうっすらと汗をかいてきたのが分かる。


握ったのはいいけど、なんか、何を話したらいいかとか、そんなの分かんねーし。


あなた
佐神くん
佐神弾
…んだよ
あなた
大丈夫だよ。私、ここにいるから
佐神弾
…え?
あなた
今日は何でも言うこと聞いてあげるって言ったしね!まあ、こんな手でいいなら、だけどさ…はは




なんで。




なんでこいつはいつも、俺が欲しい言葉をくれるんだろう。



真っ直ぐ目を見て。



なんでも受け止めてくれるような顔をして。




こいつが大人だからなのか、それとも俺がまだちゃんと大人になりきれていないからなのか。


嬉しいような。でも悔しいような。



俺はまだ何一つだって、こいつに返せていないのに。


佐神弾
別に、…こんなのじゃねーし




繋がれた手が物足りなくて、掬いとるように指先を絡める。



あなた
佐神く…




戸惑う声を無視して、さらに強く握りしめた。



古町有起哉
おーーーーい!!帰ったぞ弾ーー!!熱下がったかーー?って、…え?うえぇぇええ?!?!
小野寺宝
なに!なに!どうしたん!!?




突然バンと扉が勢いよく開いて、テンション高めの有起哉が入ってくる。


すぐに俺たちの姿が目に入ったのか、素っ頓狂な声を上げた有起哉に、他のメンバー達も身を乗り出してきた。




繋いでいた手をサッと離す。



佐神弾
ちっ…めんどくせえ
古町有起哉
なななな、なんで、なんで、こんな暗い部屋にあなたと2人きりでいんだよ!!しかも、今、手、手!!なんか手握り合ってなかったか?!
佐神弾
何もしてねーよ
古町有起哉
嘘だー!嘘だー!今絶対なんかやらすぃーことしようとしてただろ弾!
佐神弾
してねえって!
一之瀬栄治
心配で早めに帰ってきたのに、まさか寮でこっそりイチャイチャするとか…
久留島巧
ハレンチ…
成瀬大二郎
なんか、ごめん、弾。その、邪魔しちゃって…




あーーーー、くそ



佐神弾
だから。そんなんじゃねえから。



吐き捨てるように言うと、まだ納得してないような顔の有起哉たちに、宝がまあまあと言いながらに間に入る。


小野寺宝
弾も今朝より元気そうやし、良かったやん
佐神弾
…ああ
成瀬大二郎
あなたさん。弾のこと、ありがとうございました
あなた
う、ううん!お粥作ったくらいだし、全然!



取ってつけたような笑みを浮かべて「じゃあ私は夕飯の準備もあるし、退散するね!ハハ」と言いながら腰を上げたタイミングで、目が合った。


佐神弾
っ……



気まずくて思わず目を逸らす。


相手も俺と顔を合わせないように不自然な体勢のまま出て行った。



ばたんと扉が閉まる音がして、どっと体の力が抜ける。



思わずため息が出た。
 



なんなんだよ。



何がしたいんだよ、俺。



佐神弾
くそ…また熱、上がった気がする…
成瀬大二郎
弾?大丈夫?




心配するなるを無視して頭まで布団を被った。




意味分かんねえ。

自分が一番。分かんねえ。




あいつに触れた指先をぎゅっと握りしめて、無意識にそれを口元に持っていく。




あいつを思い出して体中熱くなるのは、ただの熱のせいで。




それ以外に理由なんて、ない。



なのに頭から離れなくて。



忘れようと無理矢理目を閉じたけど、それも無理で。


結局それから一睡も出来なかった。






end.


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