私たちが乗っているのは、楓さんの運転する車だった。
助手席には私。
後ろにはロウ、ショウ、ライ、カゲツの四人。
少しぎゅうぎゅうだけど、なんとか収まっている。
緑仙さんの車には、マナたちが乗っている。
エンジンの音と、タイヤが濡れた道路をなぞる音。
それだけが車内に流れていた。
山道はくねくねと続いている。
木々が窓の外を流れていく。
濃い緑と灰色の空。
さっきまで降っていた雨は、
いつの間にか弱くなっていた。
やがて道は下り坂になり、長いトンネルに入る。
トンネルの中はオレンジ色の光。
規則的に並んだ照明が、車体にリズムを刻んでいく。
そして──
トンネルを抜けた。
視界が一気に開ける。
山を降り、町へ入ったみたい。
信号。
コンビニ。
歩道を歩く人。
久々に“他人”を見た。
思わず窓の外をじっと見てしまう。
普通の人たち。
普通に歩いて、普通に話している。
その光景が、どこか遠い世界のように感じた。
ふと、隣を見る。
ハンドルを握る楓さん。
真っ直ぐ前を見ている横顔は落ち着いていて、
どこか大人びて見えた。
そのとき──
楓さんが、ちらっとこちらを見た。
静かな声だった。
私はすぐに答えられなかった。
少しだけ考える。
不安じゃないと言えば嘘になる。
でも、それだけでもない。
いろんな感情が混ざっていて、
自分でもよく分からない。
それでも、小さく頷いた。
そう言うと、楓さんは少しだけ笑った。
そして、前を見たまま言う。
それっきり、会話は途切れた。
車内にまた静けさが戻る。
気まずいような、落ち着くような、不思議な空気。
私はバックミラーをちらっと見る。
後ろの四人。
ライは窓の外をぼんやり眺めていた。
表情はほとんど動かない。
ただ流れていく景色を見ている。
その隣では──
ロウが腕を組んで眠っている。
ショウも、頭を窓に寄せてぐっすりだ。
カゲツは少し体を丸めて、静かに寝息を立てている。
三人とも完全に寝ていた。
少し疲れが溜まっていたのかもしれない。
つい数時間前まで屋敷にいたとは思えないほど、
穏やかな顔だ。
私は小さく息を吐く。
車はまたトンネルに入った。
さっきよりも長い。
暗い空間がずっと続く。
トンネルを抜けると、町はもう見えなくなっていた。
道路はまっすぐ伸びている。
高速道路だ。
車の流れも速い。
両側には同じような景色が続いている。
防音壁。
遠くの山。
灰色の空。
変わり映えのない景色。
しばらく見ているうちに、少し飽きてきた。
窓に額を軽く預ける。
車の振動が、微かに伝わってくる。
時間の感覚がぼんやりしていく。
空を見ると、さっきより少し色が変わっていた。
雲の隙間に、淡い光が混ざっている。
そろそろ日が傾き始める頃だ。
長い移動。
そして──
まだ見えない、これからの場所。
この道の先にあるものを想像しながら、
私は静かに窓の外を見続けていた。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。