登場人物
藤原丈一郎:和也の幼なじみ
大橋和也 : 少女漫画のような恋をしたい。クラスのイケメン、高橋くんが好きだったが最近は、、
「はぁ……こういう恋、ほんまに憧れるなぁ……」
大橋和也は、自分の部屋で大好きな少女漫画を抱きしめてベッドをゴロゴロと転がっていた。
いつか自分にも最上級にロマンチックな恋が訪れるはず、そんな妄想ばかり膨らませている。
最近の和也は、クラスで一番女子にモテる「高橋くん」のことが気になっていた。
背が高くて、クールで、絵に描いたような王子様。
「やっぱりかっこええなぁ……」
廊下ですれ違うたびに目で追ってしまい、これが「恋」なんだと信じて疑わなかった。
そんな和也の隣には、いつも一人の幼なじみがいた。
「おい大橋、また口開けてボーッとしとる。ヨダレ出そうやぞ」
そう言って和也の頭を小突くのは、隣の家に住む藤原丈一郎。
小さい頃からずっと一緒で、和也にとっては遠慮のいらない「ただの幼なじみ」だった。
和也が高橋くんのことを「かっこいい」と騒いでも、丈一郎はいつも「はいはい、そやな」と興味なさそうに聞き流すだけだった。
だけど最近、何かが少しずつ変わり始めていた。
学校の行事で丈一郎がクラスを引っ張って頼もしく指示を出している姿。
和也が重い荷物を持とうとしたとき、「貸せ」ってぶっきらぼうに奪い取っていった、少しゴツゴツした男らしい手。
(あれ……? 丈くんって、こんなにかっこよかったっけ……?)
一度意識してしまうと、もうダメだった。
いつの間にか和也の視線は、クラスの王子様ではなく、一番近くにいるはずの幼なじみを追いかけるようになっていた。
その日の夜、和也はドキドキしながら丈一郎にLINEを送ってみた。
『丈くん、明日の数学の宿題やった?』
すぐに既読がつき、テンポよく返ってくるメッセージ。画面を見るだけで胸がぎゅっとなる。
『やるわけないやろ。明日見せてや』
ただのいつものやり取りなのに、和也は嬉しくてベッドの上でジタバタと跳ね回った。だけど、すぐにハッと我に返る。
(あかん、自分ばっかり舞い上がってバカみたい。丈くんは俺のこと、ただの幼なじみとしか思ってへんよな……)
翌日の放課後。予報外れの激しい雨が降ってきた。
傘を忘れて下駄箱で困り果てている和也の前に、一本の大きめのビニール傘が開かれた。
「ほら、入るやろ。一緒に行ったるわ」
あきれ顔の丈一郎がそこにいた。「ありがとう……!」と小さくなって傘に入ると、二人の肩が触れそうなほど距離が近くなる。
雨の音が世界を静かに包み込んで、和也の心臓の音が丈一郎に聞こえてしまいそうだった。緊張に耐えかねて、和也は気になっていたことを、何気なさを装って聞いてみた。
「なぁ丈くんって、初恋とか……いつなん?」
丈一郎は少し驚いたように雨空を見つめ、それからちょっと照れくさそうに口を開いた。
「初恋?……あー、幼稚園の頃やな」
(え……)
和也の胸がズキリと痛んだ。それは自分じゃない。
「へ、へぇ……そうなんや。どんな子なん?」
ショックを隠すために、わざと明るい声を作ってうつむいた。やっぱり自分の一人相撲だったんだと、涙が溢れそうになる。
すると、丈一郎が突然、足を止めた。
「丈くん……?」
丈一郎は傘を持ったまま、耳まで真っ赤にして和也をまっすぐ見つめていた。
「どんな子って……。お前のことやけど」
「……えっ?」
頭の中が真っ白になった。
お前のこと? 過去の自分ってこと……?
パニックになって見上げる和也に、丈一郎は一歩、距離を詰める。
「幼稚園のころから……ずっと前から言いたかった言葉、今言うわ」
丈一郎は少しぶっきらぼうに、だけど最高に優しい声で呟いた。
「なぁ、いまもやで?」
——ハッとなって、ギュッとなって、和也の頭の中は大爆発した。
「え、あ、えええーーーっ!?」
顔が真っ赤になってパニックになる和也を見て、丈一郎は「やっと気づいたか」と言わんばかりに、意地悪で、でも世界で一番愛おしそうなあの笑顔を咲かせた。
(終)












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!