第3話

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2020/08/06 03:00 更新
「もう、出てくのか。」


その声の主は、ドアの開いた、


出ていく支度をする私の部屋の前に居た。


私は、ピタリと手を止め其方を向く。




『当たり前、離婚する夫と一夜過ごして何になるの』


「でも、どこに泊まる気だ…」


「…それは〝元妻〟だからとか、そういうのじゃなくて。」


「純粋に実加が心配なんだ。」


『………まだ終電まで時間ある』


『それに、ここから実家は三駅』


『ホテルもまだ空いてる。もう分かるでしょ?』


『いいの、余計な心配とか。』


「………そう、か。」



────また、その顔。





『私は、凄くショックだった』


「…!」


『今まで、嘘つかず真面目で、優しい克久かつひさに、』


『初めて、嘘をつかれた。』


『しかも、他の女と付き合ってたんだよ?』


皮肉のように、笑う。


心の底から、ただ〝辛い〟〝裏切られた〟


その感情が沸き出てくる。
「本当に、何を言って良いのか分からない。」


「ただ、俺には謝ることしか、出来ない。」


『でもいらない、謝罪なんか。求めてない。』


『無言で、いいの。』


「それじゃ、俺が嫌だ。」


『…は?』


「言い方は悪いけど、これでも好きだったんだ。」



なんで、過去形。


いや、まぁそうだよ、ね。


「だから、気にかけない訳にはいかないんだ。」


「だから出来ることは、する。」






よくその口から出てくるものだ。


本心かも分からない言葉がスラスラと。


信じない、いや、信じられない。


「……勝手にすれば?何ももう聞き入れない」



真っ直ぐに私を見る彼を、


私は自分から冷たくあしらった。
申し訳ないと、思わない訳じゃ、ない。


ただここで謝ったら、きっと、


プライドの高い私が負ける気がした。




子供みたいで、恥ずかしい。


そんな気持ちも全部、バッグにつめる。





これを開ける時が来るというのに。


でも、せめて今は、しまっておきたい。


『じゃあね、もう、二度と会わないと思う。』


「……金は、出すから。」


「体調とかに、気を付けてな。」





あぁ、もうほんとにコイツは。





『子供、』


「え?」


『生めなかった』





ずっと、気にしていたことだった。




でも、


あぁなんだそんなことかとでも言いそうな顔で、


「…気にしてないよ。」


彼は、そう優しく笑った。


そんな顔しないで、向けないで。


この足を、止めたくない。


でも行かなくては、ならないから。





『さようなら、』


「…じゃあな。」






私は、驚くほどの重い足を出口に向けて、


家を、出た。






──────きっと、もう会うことは無い。




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