第8話

6. perl
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2022/12/06 11:24
被験体6番、本当の名前は、perl。
僕は、被験体10番のopalと一緒にここに来た。


opalと初めて会ったのは、管理施設0012に連れていかれる途中のコンテナの中。
虹色に輝く瞳の持ち主がopalだった。

名前は何ですか、の会話から始まった僕らは、コンテナでの大移動を経て少し距離が縮まった。

opalは芸術家であり、絵画が好きだということ。
自由が好きで、縛られるのが嫌いだということ。性別を決めていないから好きに呼んで良いということ。



opalは話上手だった。
コンテナの中で、僕らは飽きることなく言葉を交わした。









コンテナから降ろされるとそこには、無機質な施設が建っていた。
隕石でも落ちたような、何もない廃れた場所だった。
動物の痕跡はない。火星の表面のような、全てが壊された後だった。
その中に大きくそびえ建つ人工的な白。
それが、管理施設なのだと言う事は直ぐにわかった。



僕らは、促されるままに施設の中に入る。
施設の中には檻が丁度12個あり、どうやら僕らが最後のようだった。

檻に入れられた僕ら以外の10の被験体は、夜遅い事も相まって、殆どが寝ている。

僕らは、足音を潜めつつ、指定された檻の中へ入る。

opalは僕の斜め向こうの檻だ。
僕は、初めての場所で戸惑いつつも眠気に身を委ねた。



それからは早かった。
朝目覚めると、周りの被験体らは興味津々と言った顔でこちらを見、口々に話しかけてきた。


名前は何、どこから来たの、好きなものは何、これからよろしくね。


僕らはすぐに打ち解け、家族のように過ごした。
aquamarineは悩み事を僕に相談してくれるし、diamondや sapphireと哲学について議論もした。
topazの研究内容を聞いたこともあったし、rubyの恋愛相談を受けた事もあった。

opalが絵を描きたいというと画材が、peridotがミサンガを作りたいといえば糸と針が支給される。


管理施設0012は、僕らにとって居心地の良い場所になった。




それらを見て、ここは昔より随分と良くなったね、とemeraldが零した。
昔はどんなだったの、と問うたけれど、emeraldは少し笑うばかりだった。
過去を恨んでも仕方がないわ、私たちは未来に向かって進むだけ、と。


変わらなくちゃ、と僕らは言う。
目標を掲げ、努力を怠らずに前進し続けるのが美しさだと。

夢を追いかけるopalやtopaz。
変化を恐れないaquamarineやemerald。
彼らが持つそれぞれの輝きは、心の強さなのだろうと思う。




だからきっと。
変われないままの僕は、醜いのだろう。






僕は時々思う。
“ 僕だけが異質な存在なんじゃないか。本当に僕に存在価値はあるのだろうか。”










ある日、僕は交流会でamethystにそれを打ち明けた。僕は皆と同じ場所に立てるような、そんな高い志はない、と。
そうか…と呟いたamethystは、そういう相談はperidotが長けている、と言い、peridotを呼んだ。

peridotは話を聞いた後、何でもないことのように言う。


「不変でいることだって、可変と同じように美しいのよ。弱さを知ることは最大の強さだし、迷う時が1番歩んでいるのだから。」


朗らかに笑うperidotは、誰にだって悩む事はあるのよ、と言う。
「赴くままに、生きればいいの。私たちは自由なんだから。『ニンゲン』やマスターとは違い、好きな場所にいつでも飛び立つ事が出来るのよ。」と。

それを聞いたamethystは優しそうに目を細めた。
ここにいても、いいんだ。そう呟いた僕の声は掠れていた。
それでも、心の中がとても温かくて、優しくて。

僕は、瞳を閉じた。

あまりの優しさで、目頭が少しだけ熱かった。
少し震えた唇を動かし、ありがとう、と言った僕をみて、peridotは優しく微笑んだ。














好きなようにやって良いのだ、と。
どんな僕でも、認めてくれる仲間がここにいるのだということ。


それでも、僕の悩みは全て解決したわけではない。
周りへの劣等感は感じるし、peridotの優しさに甘えているようにも思う。






でも、僕はここで生きていく。
これからも沢山迷って、沢山悩んでいくのだろう。
けれど、僕はもう大丈夫だ。
自由な僕らは、何処へだって行ける。








どこまでも、真っ直ぐに。









この身が朽ち果てるまで、ずっと歩いていこう。
いつか、等身大の自分を好きになれる日まで。

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