葉琉花は頭が真っ白になった。
すぐ近くで、人の声が聞こえる。それが葉琉花をさらに焦らせる。
この声は、あの公園で聞いたものだ。低くて安定感のある、でも少し冷たい声。
この声も、聞き覚えがあった。生真面目そうで、少し硬い。
辺りを見回すも、何もない。まばらに木が植えられているだけ。
立ち尽くす葉琉花の前に、あの警察官が姿を現した。
そしてはっきりと、目が合う。
葉琉花は思わず後ずさった。
若い方の警察官が、ここに人がいることに驚いたような声で言う。
しどろもどろになる葉琉花を見て、威厳のある警察官が声を上げた。
_____なんで分かんの…?
動きが止まったのを見て確信したのか、警察官は息を吐く。
もう、これは仕方がない。
葉琉花は深呼吸をすると、しっかりと警察官と目を合わせた。
そのころ、3人は椅子に座っていた。
塔山はノゾムの魔法を受ける前から変わらない、気だるそうな態度で尋ねた。
白萠はノゾムに視線を向ける。ノゾムは頷いた。
塔山が紙とペンを自分の手元に引き寄せる。
しかし何を思ったか、またもとの位置に戻した。
視線に気づいたのか、塔山は「個人的に」の部分を強調して言う。
白萠にとって、それは訊かれるだろうと予想していたものだった。
ノゾムが代表してそう答える。もともとそれを提案したのはノゾムだから、白萠も先輩も何も言わなかった。
塔山は、思わずというように吹き出した。
そうなるよな、と白萠は心の中で苦笑する。
ノゾムから「人と関わりたい」という言葉を聞くなど、この世がテクノロジー中心になるくらいあり得ないことだから。
するとノゾムは、こんなことを言ってのけた。
これには白萠も、思わずノゾムを見るほど驚いた。
ノゾムは微笑んでいた。驚くほど自然に、優しく。
しかし長年一緒にいる白萠から見ると、その笑みは薄ら寒く感じるほどに不気味なものだ。
さすがの塔山も、言うべき言葉が思いつかないとでもいうように黙っていた。
ノゾムは笑みを浮かべたまま、続ける。
白萠と先輩は、視線を合わせて肩をすくめた。
ノゾムがそう言った時、塔山は何事にも無関心そうな表情を取り戻した。
平静を装うような静かな声だ。
ノゾムは微笑んだまま、「はい」と頷く。
それから、ふと首を傾げた。
先輩が思わず、というように声を上げる。
白萠も顔を上げ、塔山を見た。
塔山は、思い切り顔をしかめていた。
ノゾムの方も、幾分か困惑しているようだった。浮かべている笑みがぎこちない。
…そしてこの場に、沈黙が落ちた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!