月の光に照らされた、薄暗い公園が、そこにはあった。
その周りにまばらに立った木々が、さわさわと揺れる。
と、こちらにまで涼しい風が吹き込んできた。
思わず、といったように、先輩が声を上げる。
白萠はゆっくりとその公園に歩み寄った。手を伸ばす。
果たしてその手は、外の冷たい空気に触れた。
塔山が少し不機嫌そうに呟く。
ノゾムがしっかりと塔山を見つめながら言った。
先輩が怪訝そうな目で塔山を見る。
塔山が、あぁ、と声をこぼした。ちらと正規のドアを見ながら口を開く。
白萠はすうっと目を細めた。確かに、納得は出来る。
塔山はどこか苛立たしげにも見える表情で、公園の方を指し示した。
3人は顔を見合わせる。
塔山を信じてもいいものか、決めかねていた。
塔山がそう言う。
でも……。3人は黙り込んだ。
塔山が何を目的としているのか、分からなかったのだ。
そうして迷っていると、塔山は頭を軽く振った。
1回目は耐えて、2回目は洗脳されたとでも言っておけばいいだろ、と塔山は面倒くさそうな表情で言う。
そして、3人の返答も待たずに公園へと歩いていった。
少し風が吹いて、次の瞬間には、塔山は『向こう側』にいた。
こちらを見て、軽く肩をすくめてみせる。
ノゾムが問いかけた。
すると先輩が、吹っ切れたような明るい声を出す。
そのまま軽い足取りで公園の前に行き、ゆっくりと手をかざした。
それから手を引っ込めると、思い切ったように足を踏み出す。
そして、先輩も『向こう側』にいった。
振り返り、興味津々といった様子でこちらを覗き込む。そして、手を振ってきた。
振り返していると、ノゾムが白萠を振り返る。
そして、ノゾムもゆっくりと歩いていった。
残された白萠は、取調室を振り返る。
椅子を元のように戻して、それから公園へ歩いていった。
____近づいていた、3人分の足音には気づかずに。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。