第24話

〜聖夜ボランティア〜
11
2024/04/01 10:10
塔山が椅子に座ったまま、ため息をついた。
塔山(警察官)
なんでこんな奴らが脱獄するかな…。
警察の尊厳に関わるだろ
そこに関しては何も言えないですね
先輩も、しっかり役割を考えているらしい。これ以上ヒートアップしないように踏みとどまっている。
まぁそこまで子供じゃないか、と白萠は思った。
と、ノゾムが手を挙げた。
塔山はちらりと目をやり、軽くため息をつく。
塔山(警察官)
…何です?
白萠はじっと前を見た。ここでノゾムの目を見てはいけない。一瞬でも。
ノゾム
塔山さん、
ノゾムが言う。塔山がノゾムの方を見た気配がした。



____ノゾムは記憶を操ることができる。
記憶を操る。
つまり、ニセモノの記憶を入れて人を洗脳することさえ可能になる。


警察官を洗脳して、その警察官に釈放させれば、堂々とここから出ることができるのだ。
それこそ、ノゾムの脱獄方法だった。いや、この魔法しかなかった、と言うべきか。


記憶を操って洗脳する、という魔法は、現時点でノゾムしか持っていない特殊中の特殊なものだ。

ただ単に洗脳する魔法は、奈菜の母の事件からも分かるようにいくつか存在する。しかしその洗脳魔法よりも、ノゾムの持つ魔法の方が強い。
現に、警察が持つ対洗脳用の魔法はノゾムに効かなかった。





つまり、ノゾムの魔法は他の魔族と比べても1番強い。





白萠はしばらく黙った。先輩も何も言葉を発しない。




白萠は、いや先輩も、決してこの魔法を支持しているわけではない。何せ、人体に影響を与えるのだ。


……しかしここから出るにはこの方法しかない。


ノゾムによると、洗脳して数週間は、しばらく意識がぼんやりするという。でもそれが過ぎれば、洗脳はもう解けている、と。

ノゾムも、そこまで残酷ではない。前も、脱獄した後すぐに洗脳を解いていた。

白萠たちも、そこはノゾムを信頼している。
だから今回の洗脳も、きっと上手くいく。




やがて、白萠は違和感を覚える。
今まで、洗脳がここまで時間を使うことはなかった。

ちらりと塔山を見ると、俯いていた。
ノゾム
……塔山さんに、洗脳が効きません
ノゾムが、感情がこもっていないような声で言った。


「え」と先輩が小さく呟く。
白萠はゆっくりとノゾムを見る。
ノゾムは少しだけ眉をひそめて、塔山を見つめていた。
塔山(警察官)
……やっぱ強い
塔山が呟く。顔を上げて、ノゾムを見た。
塔山(警察官)
でも、ちゃんと無効化できた
塔山はなんだか投げやりな笑みを浮かべる。
白萠
あなたは魔法を無効化できるんですね
白萠がそう尋ねたが、塔山は肯定も否定もしない。代わりに、こう言った。
塔山(警察官)
さすがに、一回目あんなに暴れといて対策をしないことはないだろ?
そして、はあとため息。先ほどまではただただ鬱陶うっとうしかったが、今となってはそんな事はどうでも良い。
白萠
……
3人が見つめる中、塔山は気だるそうな表情を崩さない。



そのころ。
葉琉花
…っ、奈菜ちゃん、大丈夫…?
奈菜
…うんっ
葉琉花たち2人は、街中を走っていた。
なぜかというと、時間は少し遡ることになる。
*  *
奈菜
……あの3人は、魔族だよ
それは、葉琉花の予想と同じだった。
でも精神的に受け入れ難くて、葉琉花は黙る。
奈菜
……はるかちゃん…ごめんね
葉琉花
……いやいや、なんで奈菜ちゃんが謝るの!
奈菜の言葉に驚いて、葉琉花は慌てて首を横に振った。
葉琉花
逆にありがとね、わざわざ教えに来てくれて…
奈菜
…いえ、それは…。眠れない時間が近づいてたし
奈菜はぼそりと何か呟いて、真剣な顔になる。
奈菜
……で、このままでいいの?
あみなさん達は優しいひとなんでしょ
葉琉花
……うん
葉琉花はうつむいた。
奈菜に会って、先輩達のことを知って。今、葉琉花の中で“魔族”の定義が揺らいでいる。
ずっと前、先輩は言った。



___大規模、悪趣味、って言うけど、何を基準にしてそう言うかは知らないでしょ?

その通りだ。“魔族”というのは、たまたま強い魔法を手にしてしまった“一族”なのだ。


たまたま、そんな家系に生まれてしまっただけなのだ。
そんな人たちを、私たち“一般人”は毛嫌いしていた。
望んでそんな家系に生まれる訳でもないのに。一度は絶滅の危機を助けてくれたのに。きっといいひとだっているはずなのに。
勝手に恐れ、悪い噂を流して、避けた。
_____これは、紛う事なき“差別”なんだ。



そして、差別はループするもの。
“一般人”などと名乗る人々から嫌われ、避けられた“魔族”は、悲しみと同時に恨みをもつ。

きっと、悪いことをする魔族だって“被害者”なのだ。

もちろん、葉琉花は人生を変えたあの事件のことを忘れはしない。
でも、魔族だって“人”なんだということも、忘れてはいけない。
そう、初めて思った。思えた。







結論を出して、葉琉花は顔を上げた。
葉琉花
…私、警察署に行ってくる
うん、と奈菜が安心したように笑みを浮かべた。
奈菜
じゃあ、一緒に行かせて

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