のっぺらぼうを茶の間の席に座らせ、お茶をコトン、と前に置く。
のっぺらぼうは何も言わないまま、俯いている。湯呑を持つ両手がまだ小刻みに震えているのを見ると、まだ大丈夫ではないのかもしれない。
俺は何も言わないまま、のっぺらぼうの斜め向かいに座った。隣にはおばあちゃんがいる。
おばあちゃんが口を開いた途端、一瞬のっぺらぼうの肩がピクリと跳ねた。
のっぺらぼうはさらに俯く。それと同時に、後ろに流していた髪がさらさらと落ちていき、包帯を巻いたカオを隠す。
流石にのっぺらぼうだと呼び辛い。確かに名前を聞いておいたほうがいいかも。
でものっぺらぼうは俯いたまま答えない。
暫くしてのっぺらぼうが徐ろにに湯呑を置くと、慎重に口を開く。
名前無かった。
名前を付けてくれる人が居なかった…。ってことか。
おばあちゃんは頬杖をつきながら、横目で俺を見つめている。その口元には微笑が宿っている。
のっぺらぼうが、ばっと頭を上げた。なんだか嬉しそうな表情をしている気がする。
少々身を乗り出して俺に訴えかける。
名前…名前…俺にそんなネーミングセンスあったっけ…。
自分の創作キャラに名前つけるとか、人にあだ名つけるとは訳が違う。こんな、生きてる人に(厳密には妖怪だけど…)名前つけるなんて責任が重すぎる。
そんなことをぐるぐる頭に巡らせていると、のっぺらぼうはそれに気づいたようで、短いため息を一度吐く。
俺は、机をドンッと拳で叩いた。
それにのっぺらぼうは驚いて身を引く。
軽く顔が青ざめた、やってしまった。でもそんな俺の心境とは裏腹に、のっぺらぼうは口元をほころばせている。
のっぺらぼうは、口元に袖を当ててクスクスと笑い声を漏らしていた。
ニマニマとしながらこちらを観察しているおばあちゃんが、視界の端に写った。
クスクスと肩を震わすのっぺらぼうにそう告げたあと、自分の部屋にあるメモ帳を乱暴に手に取って戻ってくる。
のっぺらぼうは両手でカオを覆ってぴくぴく震えている。元気になったみたいでよかった。
ベシッ!と手のひらサイズのメモ帳を面子のように机に置く。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!