待ち合わせの改札前。
新はスマホを見ているふりをしながら、同じ画面をずっと眺めていた。
(……早すぎた)
10分前。
来るのも早すぎたし、落ち着かない。
服もこれでよかったのか分からない。
(ダンスじゃないのに、なんでこんな緊張してるんだろ)
「……新」
名前を呼ばれる。
びくっと顔を上げる。
「……影山くん」
「おはよ」
いつも通りの声。
でも、私服。
黒ベースでシンプルなのに、やたら似合ってる。
(ずるい)
「……おはようございます」
一瞬、間が空く。
何を話せばいいか分からない。
「……早いね」
「影山くんも」
「まあ」
ぎこちない会話。
沈黙。
(無理)
内心で頭を抱える。
すると。
「とりあえず、行く?」
影山くんが言う。
「……はい」
それだけで、少しだけ楽になる。
街を歩く。
並んでるのに、距離が微妙に遠い。
(体育館の方が近い)
おかしい。明らかに。
「……何食べる?」
影山くんが聞く。
「なんでも」
「一番困るやつ」
少しだけ笑う。
その笑い方に、ちょっと安心する。
「……じゃあ、軽めでいいです」
「了解」
短いやり取り。
でも、ちゃんと会話になってるだけで嬉しい。
カフェ。向かい合って座る。
(近い)
体育館と違って、逃げ場がない。
「……その」
影山くんが口を開く。
「私服、なんか新鮮だな」
「そっちもです」
即返す。
「……似合ってます」
言った瞬間、後悔する。
(何言ってるの)
影山くんが一瞬止まる。
「……ありがと」
少しだけ照れた顔。
それ見て、余計に恥ずかしくなる。
沈黙。
コーヒーを飲む。
(無言つらい)
でも、嫌じゃないのが余計に困る。
店を出たあと。
少しだけ人が少ない道に出る。
「……新」
呼ばれる。
「はい」
「さっきからさ」
少しだけ、言いづらそうに。
「距離遠くない?」
一瞬、固まる。
(やっぱ思ってたんだ)
「……なんか」
正直に言う。
「どうしていいか分からなくて」
影山くんが、少しだけ息を吐く。
「それ、俺も」
同じだった。
それだけで、少し笑いそうになる。
「体育館だと普通なのに」
「それな」
「……変ですよね」
「変だな」
二人で少しだけ笑う。
その流れで――
「じゃあさ」
影山くんが一歩近づく。
自然に。
逃げ場がない距離。
「普通に戻す?」
「……普通って」
「こういうやつ」
そのまま、手を取られる。
軽く。でも、迷いなく。
(……あ)
一瞬で、心臓が跳ねる。
でも、振りほどこうとは思わない。
「……外ですよ」
小さく言う。
「知ってる」
「見られます」
「別にいいだろ」
さらっと言われる。
その一言で、何かがほどける。
「……影山くんって」
「なに」
「そういうとこ、ずるいです」
少しだけ笑う。
影山くんも笑う。
「新の方がずるいよ」
「なんで」
「その顔でそれ言うから」
意味が分からなくて、首をかしげる。
「……天然」
小さく言われる。
「やめてください」
でも、笑ってしまう。
そのまま歩く。
手は繋いだまま。
さっきまでのぎこちなさが、少しずつ消えていく。
「……なんか」
新がぽつりと言う。
「やっと落ち着いてきました」
「遅い」
「しょうがないじゃないですか」
「まあな」
軽く笑う。
そのまま。
自然に距離が近づく。
今度は、もう無理に意識しなくてもいい。
「……次、どこ行く?」
「どこでもいいです」
「またそれ」
「でも」
少しだけ考えて。
「一緒なら、どこでも」
言ってから、固まる。
(今のはやばい)
影山の動きが止まる。
「……それ」
少し低い声。
「普通に破壊力あるからやめて」
「……すみません」
「いや、やめなくていいけど」
矛盾したこと言ってる。
それがちょっとおかしくて、また笑う。
※
少し離れたところで。
「見てる?」
基がスマホを見せる。
「見てる」
湊が頷く。
いつの間にか仲良くなってる基と湊。
(※ちなみに偶然見かけただけ)
「ぎこちなすぎだろ最初」
「でも途中からちゃんと戻してる」
「手繋いだな」
「だね」
二人で静かに見守る。
「……もう大丈夫そう」
湊が小さく言う。
「そうだな」
基も頷く。
「てか、あれ見てるとさ」
「はい」
「俺らもういらなくない?」












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。