第11話

嫉妬?
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2026/04/24 14:17 更新
練習後の体育館。
人も少なくなって、空気が少し緩んでいた。
新は片付けをしながら、軽くストレッチをしている。
その横に――
「新ってさ」
先輩が声をかけてくる。見慣れた顔。
同じサークルの先輩男子。
「見た目クールなのに、話すと可愛いよな」
「……そうですか」
少し困ったように笑う。
その反応が、また面白いらしい。
「そのギャップずるくない?」
距離が少し近い。
新は一歩だけ引く。
でも完全には離れられない。
「ダンスも上手いしさ」
先輩は更に距離を詰めて、新の肩に軽く手を置く。
「今度さ、俺とも組まない?」
その瞬間。
「…おい」
低い声が割って入る。
空気が一瞬で変わる。
振り返ると影山が立っていた。
いつもの笑顔はない。
真っ直ぐ、先輩を見ている。
「……何」
先輩が少しだけ眉をひそめる。
「距離近くないですか?」
「別にいいだろ、これくらい」
先輩は新の肩に手を回して自分の方に引き寄せた。
それを見た影山の顔色が変わる。拳を握りしめて今にも殴りかかりそうな様子。
「よくないですよ」
空気がピリッと張る。
先輩も苛立っている。
「は?お前に関係なくない?」
「あります」
(やばい)
新は焦って先輩の腕を解いて距離を取る。
「影山くん」
影山を止めようと小さく呼ぶが、全く聞いていない。
「新は、俺と組むんで」
「……へえ」
先輩が少しだけ笑う。
「そういう感じ?」
「そういう感じです」
影山は一歩も引かない。
しばらくの間、視線がぶつかる。
それから。
「……はいはい」
先輩が手を上げる。
「ごめんごめん、知らなかったわ」
軽く笑って、その場を離れていく。
空気がふっと緩む。
「……影山くん」
新が呼ぶ。
「ちょっと」
そのまま影山の腕を引いて体育館の端まで連れていく。
人の少ない場所。
「……今の」
新が少しだけ困った顔をする。
「言い方、強くなかったですか」
「無理」
影山はイラついた声で被せるように言う。
しばらくの沈黙。
「……無理だった」
深呼吸をして落ち着いた影山が、もう一度言う。
さっきより、少しだけ弱い声。
「何が」
「さっきの、普通に無理」
言葉を選ぶ余裕がない。
「触られてんの見て、イラついた」
新の目が揺れる。
「……影山くん」
「分かってる」
「冷静じゃない」
影山は新から視線を逸らして俯く。唇を噛んで少しだけ悔しそうに。
「止められなかった」
新は黙って聞いている。
「……でも、やりすぎたかも」
しばらくの沈黙の後、影山からぽつりと漏れる。
新はその様子を静かに見つめている。それから。
「……嬉しかったです」
小さく言う。
影山が顔を上げる。
「は?」
「ちゃんと嫌だって思ってくれたの、分かったんで」
影山は一歩、新に近付いてその頬に触れる。
「怖くなかった?」
「少しだけ」
正直に答える。
「でも」
今度は新の方から一歩近づく。
「それ以上に、安心しました」
目を合わせて微笑む。その顔を見て、影山は言葉が詰まる。
「……ほんとさ」
小さく息を吐く。
「そういうとこ、ずるいよな」
「また言ってます」
そのまま、新は影山の手を取って愛おしそうに両手で包む。
「……でも」
少しだけ真面目な声。
「喧嘩はしないでくださいね」
「……努力する」
若干不貞腐れた態度で影山が答える。
「まあ、いいです」
新も分かってる。
そのまま、少しだけ距離が縮まる。
さっきまでのピリついた空気が、ゆっくり溶けていく。



少し離れたところで。
「うわ、ガチだった」
基が小声で言う。
「ガチだったね」
湊も頷く。
「拓、あんな顔するんだな」
「新もちゃんと受け止めるし」
少しだけ間があって。
「……大丈夫かな、あれ」
基が珍しく心配をする。
「大丈夫じゃない?」
湊は落ち着いている。
「意外とちゃんと仲が深まってる」
基がふっと笑う。
「まーそうだね。心配しすぎか」
「そうそう、見守ってあげよう」
視線の先には仲良く笑い合う影山と新の姿。暫くは平和でありますようにと祈る基と湊でした。

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