あなたのローマ字(家入硝子→Shoko) side
ぼんやりと意識が浮上する。真っ暗…というか、目を閉じたままなのか。全身が痛くて怠い。目を開けるのすら億劫だ。
そして、消毒液と煙草が混ざったような匂いと、だれかの話し声が聞こえる。
伊地知さんと…誰だろう。女の人…?
ゆるゆるとまぶたを持ち上げると、一瞬目の前が真っ白に光る。
伊地知さんの顔が映る。白く光ったのは照明かなにかだろう。
未だふわふわする意識に、知らない女性の声が響く。
だれだ…?というか、けが…ちめいしょう…。
そこで、自分がここで眠りこけるまでの経緯を思い出した。
伊地知さんの言葉に酷く安心する。初任務から失敗していたら、五条さんたちに合わせる顔がない。
段々とぼやけていた意識がはっきりとした形を取り戻し、寝台の上で上半身だけをゆっくりと持ち上げる。
目の前にいたのは、伊地知さんと、もう一人。煙草を吸った、肩に着くくらいの綺麗な茶髪で、左目に泣きぼくろのある女性。
ハスキーっぽい声がのんびりと響く。
名前を知りたくて目線をあげると、髪色と同じく綺麗な 榛摺色の瞳と目が合った。
教えてもらった名前を反芻した途端、胸のあたりがぎゅっと熱くなった。なんでだろう、目の前にいる硝子さんがきらきらと輝いてみえて仕方ない。
こちらが貴女に目を奪われているとも知らず、ゆったりとした喋り方で説明を続ける硝子さん。
内容なんてほとんど入ってきてない。死にかけていたことと、硝子さんが助けてくれたことだけは理解できたが。
煙草を口に咥えたまま、小首を傾げて上目がちに理解の是非を問われる。
なにそれ、かわいい、え、どうしよう。
まったく正常ではない思考回路のまま、つい口から零れたのはそんな言葉だった。
そして、硝子さんの名前を呼んだときの胸の高鳴りの意味が、わかった気がした。
伊地知さんの動揺した声と、硝子さんのまじか…みたいな笑い声が室内に混ざって響く。
硝子さんは寝台に数歩近づき、私と目線を合わせるようにしゃがみ、いたずらっぽく微笑む。
完全に硝子さんの虜となっていた私は、腑抜けた返事しか出来なかった。
これが、私と硝子さんとの出会い。そして、私の初恋の始まりでもある。
To be continued ...












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!