あなたのパンドラの箱を見始めたら
次から次へと想いが募って
何時間こうやっていたのか……
そろそろこの宿舎ともお別れだ。
みんなで乗り込んだバン。
引越し用のトラックと共に新しい宿舎へと向かう。
走り出した車から見た見慣れた景色。
宿舎近くのコンビニ。
ここはよくレッスン終わりにあなたとここでラーメン食べてたっけ。
近くのコーヒーショップ
ここのコーヒーが気に入って毎日通ってたっけ。
あの公園はライブ前に遅くまでダンスの練習してたし
この道は朝のジョギングコースだった。
この間までの事がこんなにも懐かしくて。
涙が出た。
チムーって呼ぶあなたの顔が浮かんでは消えて
懐かしい……
新しい宿舎は前のところの何倍あるんだろうっていうくらいに立派なところで
警備も強固なところ。
とても安心できる場所だった。
自分たちが入る建物まではきれいに舗装された中庭を通って
廊下も玄関扉もすごく立派なものだった。
扉を開けて中に入れば小さな背中が見えた。
そして微かに聞こえる啜り泣く声。
そう言って泣く末っ子。
そうだね。
ここにはあなたの温もりがないね。
あの小さな宿舎には色んなところにあなたの面影があったから。
面影がないならまた作ろうよ。
あなたとの思い出をここで。
大丈夫。寂しくないよ。
あなたはとてもあったかいから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!