――コツ、コツ、コツ......
川嶋らしき人はゆっくりと部屋の前を歩いている。
歩くスピード遅すぎやろ......。
はよ通り過ぎろや!
まあ......見つかるよりはマシなんだけど......。
――俺は今、逃げた部屋で隠れている。
川嶋っぽいやつが何故かこの部屋の前にずっと居るからだ。
(見つかってるっていうことではないと思いたい。)
この部屋には等間隔に棚がいくつか置かれている。
カルテって言うんやっけ、診察結果とか書いてある紙。
それがファイリングされたものが棚に並べられている。
1個だけ見てみたけど、多分それであってる。
そんで、ドアからはパッと見じゃ分からない位置にある棚の後ろに隠れてる。
けど入られたらすぐ見つかりそうなんだよなあ......。
入ってくるなよ!
――ガラッ
フラグ回収おつ。
......じゃなくて、入ってくるなってばあああああ!
そしてやっぱり川嶋かよ......!
まじで今日運悪い......。
ここで見つかったら今度から会えなくなるよな......。
それだけは、無理っ!
......ボソリと呟いた川嶋の声は、この部屋が静かすぎて聞こえてしまった。
......何故か残念そうなその声が。
......独り言多くね?こいつ。
てかいい加減出たらええんちゃう?
多分もう20分くらい経ってると思うねんよ。
な?
おかげで、ずっとこの隙間に居るハメになってるんやけど。
ああ、狭いなあ、首痛いなあ。
そう言うと、川嶋は俺のすぐ後ろの棚にファイルらしきものを入れていく。
1、2、3......
彼は、他の棚よりも明らかに多い量のファイルを入れていった。
俺はその間、ずっと息を殺していた。
バレてないんだよな......?
たまたま多いんだよな?
そういうふうな確かめもできないことが、次々に頭に浮かぶ。
でも結局、
早く出ていけやこのロリコン野郎。
そういうことを考えてました。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!