第49話

第三十九話 開かずのロッカー・続続
3
2026/03/30 08:09 更新
放課後の教室。




誰も、しばらく動けなかった。



教室の後ろにある、あのロッカーについている
古い名札の文字は、

中田から木村という名前に変わっていた。
山川
山川
なぁ…
山川
山川
誰かなんか言えよ…
源
いや無理だろ…
星野
星野
キムタク…?
田中
田中
大丈夫…?
木村は、返事をしなかった。

ただ、じっとロッカーを見つめていた。


表情が読めない。
 

怒っているとか、泣きそうとかじゃなくて、
ただぼんやり見ているだけなのが余計に怖かった。
長谷川
長谷川
…見間違い…ではないよね…
六村
六村
でもちゃんと木村って書いてんで?
田中
田中
そうよね…見間違いとかじゃないわよね…
星野
星野
もうやだよこのロッカー…
星野
星野
意味わかんない…
山川
山川
どうする?
山川
山川
また開けんの?
源
いやいや無理無理
星野
星野
もう何も触らないでおこうよ…
田中
田中
でも、また中身が変わってるかも…


でも、結局誰も動けなかった。




誰も動かないまま、一番先に前に出たのは木村だった。
星野
星野
え、キムタク…?
木村
木村
…見れば良いんでしょ
星野
星野
え…?
木村
木村
見ればはっきりするんでしょ!!!!
木村はそう叫んだ。


が、直後、ハッとしたように我に返った。
木村
木村
………ごめん…
木村
木村
なんか、イライラしてるみたい…
田中
田中
無理もないわよ…
星野
星野
そうだよ!気にしないで…?
木村
木村
ごめん…



また、木村がロッカーの前に立つ。


そして、ゆっくり扉の取っ手に手をかけた。
ギィ…


鈍い音を立てて、扉が開く。




中に入っているものは、
木村
木村
これ…全部私の物…だよね…?
たくさんの木村の私物だった。
田中
田中
え…
田中
田中
どういうことよ…
木村
木村
全部、カバンに入れてたのに…
木村
木村
無くなってる…
六村
六村
回収されてるやん
長谷川
長谷川
またその言い方…
星野
星野
やだ…
源
まじやばすぎ…
田中
田中
………ねえ、
田中
田中
このポーチ、なんかはみ出してるわ
田中は、ポーチからはみ出していた紙を引っ張る。
     




それは、










写真だった。
星野
星野
それ、何の写真…?
田中
田中
これ、前から入ってたの?
木村
木村
………知らない…
みんなでその写真を覗き込む。





古びた、少し色あせたL判写真。



写っていたのは、この教室だった。



机の配置も、黒板も、窓も同じ。



でも、どこか古い。


今より少し前の、同じ教室。




そして、写真の真ん中には、



笑っている木村が写っていた。
全員
…………………
源
は?
山川
山川
いや待って待って待って?
星野
星野
え、キムタク…?
田中
田中
これ、いつの…?
六村
六村
合成?
長谷川
長谷川
いやそんなわけ…





木村は写真を見たまま動かなかった。



顔色が悪い。




でもそれ以上に、
何かを思い出しかけてる顔をしていた。





木村
木村
…これ
木村
木村
見たことある…
星野
星野
え?
木村
木村
………夢で
田中
田中
夢…?
木村
木村
…最近、変な夢見るの
木村
木村
ずっとこの教室にいて、
木村
木村
でも、みんなの顔が見えなくて、
木村
木村
で、後にあのロッカーがあって、
木村
木村
毎回、私がその前に立ってるの
田中
田中
どういうことよ…




木村が写真を裏返す。



裏には、ボールペンで何か書かれていた。


少しにじんた文字。


















『次はちゃんと帰ってきてね』









星野
星野
え…
田中
田中
なによそれ…
山川
山川
帰ってきてって何…?
源
もうまじ無理無理…
六村
六村
一回この学校燃やす?
長谷川
長谷川
急に物理解決に走らないでよ…
六村
六村
でも意味分からんしきもいやん
田中
田中
いやまあ気持ちはわかるわ…




その時。






コン。








全員の肩がビクッと揺れる。



音は、ロッカーの中からだった。



昨日と同じ。
でも、昨日より近い音。


まるで、誰かが中から軽く叩いたみたいな。



星野
星野
…っ
星野
星野
…今の
山川
山川
聞こえた…よな?
源
ちょ、もう閉めよ?
木村
木村
…………
田中
田中
キムタク?
 

木村は、ロッカーの中をじっと見ていた。




視線が、奥の暗がりに吸い込まれているみたいだった。





木村
木村
誰かいる
田中
田中
え?
田中
田中
ちょ、ちょっとやめてよ…
木村
木村
…いる…
星野
星野
な、なにが…?
木村
木村
女の子
山川
山川
無理無理無理無理
源
いらん情報伝えんといて…
星野
星野
どんな子?


木村は、しばらく黙った。

そして、ポツリと呟いた。


木村
木村
………私




誰も、息ができなかった


田中
田中
え?
星野
星野
キムタク…?
木村
木村
……私がいる
田中
田中
ちょっと待って、やめて…
山川
山川
どういうことやねん…
源
意味不明
長谷川
長谷川
…それ、本当にキムタク?



その瞬間、
木村がピタリと動きを止めた。




木村
木村
え?
長谷川
長谷川
だって、中田の時もそうだったじゃん
長谷川
長谷川
見た目は似てるけど本人じゃないってやつ
田中
田中
あ…確かに…
田中
田中
あの集合写真に写ってた人って、中田みたいだったけど中田ではなかったわよね…
星野
星野
じゃあ、ロッカーにいるキムタクも…
山川
山川
本物じゃない…?
源
そっちのほうが怖い…




木村が、ロッカーに顔を近づける。 




田中
田中
ちょっと、キムタク!
木村
木村
…待って、静かに
木村
木村
何か言ってる
山川
山川
いや聞くな!!
星野
星野
キムタク、離れて!!



木村は、離れなかった。


少し首を傾けて、
まるで誰かの声を聞き取るみたいに目を細める。


そして。
木村
木村
…『返して』って
その瞬間。





バタンッ!!!!
 



ロッカーの扉が勢いよく閉まった。  


悲鳴が重なる。


木村が一歩よろけて、
星野がとっさに腕をつかんだ。
星野
星野
キムタク!!
木村
木村
…っ
星野
星野
大丈夫?!怪我してない?!
木村
木村
だ、大丈夫…
山川
山川
またこれ勝手に閉まったやん!
六村
六村
まじ自主閉店やめてほしい
田中
田中
この状況でボケないで…




星野
星野
…キムタク
木村
木村
…うん
星野
星野
さっきの『返して』って…
山川
山川
…私に言ってた
田中
田中
え…?
木村
木村
なんか…
木村
木村
『私の場所を返して』って


ゾワッと、背中が冷えた。
 

源
場所?
山川
山川
なんの?
六村
六村
席替えの文句?
長谷川
長谷川
そんなわけ無いでしょ






その時、教室のドアが開いた。


全員がビクッと振り向く。


入ってきたのは、
忘れ物を取りに来たクラスメイトのねここだった。


ねここはこっちを見るなり、不思議そうな顔をした。
ねここ
ねここ
ねえ、その子誰?
田中
田中
え…?
そう言って、ねここは木村を指さした。
星野
星野
誰って…キムタクだよ!
星野
星野
木村紫音!
ねここ
ねここ
木村?
ねここ
ねここ
うちのクラスに、そんな子いたっけ?



空気が一気に凍りついた。


木村の顔から、すっと血の気が引いた。



木村
木村
え…
山川
山川
おいやめろや…
六村
六村
最悪の客来たな
田中
田中
ちょっとあんた、冗談やめてちょうだい
ねここ
ねここ
え、冗談じゃないよ…?





ねここは本当に困ったような顔をしていた。

嘘をついているようには見えない。

それが余計に嫌だった。
ねここ
ねここ
ごめん、変なこと言ったなら
ねここ
ねここ
ねここもうかえるね…


ねここはそういって、教室を出ていった。

ドアが閉まる音だけが、やけに大きく響いた。







誰も、しばらく何も言えなかった。 






星野
星野
…今の、何?
山川
山川
流石に冗談やろ…
田中
田中
いや冗談言っているようには見えなかったわよ…
源
まじでどういうこと?



木村は、ずっと下を向いていた。

写真を握りしめたまま。

肩が、少し震えていた。



星野
星野
キムタク…
木村
木村
…ねえ
星野
星野
え?
木村
木村
もし
木村
木村
もしさ、私が本当にいなかったらどうする?



その問いに、誰もすぐには答えられなかった。



星野
星野
…そんなわけないよ!
山川
山川
そうやって、な?
六村
六村
おるやん、ここに
田中
田中
そうよ、ちゃんといるわよ!



木村は、小さく笑った。






でも、その笑い方が
前より少しだけ知らない感じがした。




木村
木村
そっか…
木村
木村
じゃあ、まだ大丈夫かな。




"まだ"





その言葉が、妙に引っかかった。






その日は、それ以上何もせず帰ることになった。



というより、これ以上あの教室にいたくなかった。
 
みんな、どこか上の空で、
いつもは騒がしい帰り道も、
いつもみたいにくだらない話は一つも出なかった。
その夜。



星野は、なかなか眠れなかった。




何度もスマホを見て、
クラスのグループを開いて、閉じて。


最後に、思い切って木村にメッセージを送った。
星野
星野
💬大丈夫?

既読は、すぐについた。
でも、返事は来なかった。

かわりに、


しばらくして、木村から写真が送られてきた。




それは、真っ暗な部屋の中で撮られたらしい写真だった。

ぼやけていて見づらい。

でも中央に、はっきりと写っていたものがある。



























木村の部屋の隅に、あのロッカーが立っていた。








星野
星野
💬え
星野
星野
💬これ何
星野
星野
💬キムタク?
星野
星野
💬ふざけてる?



返信は来ない。

何度送っても、返ってこない。

でも、既読だけはついていた。
 


数分後、



もう一度、木村から通知が来た。


今度は写真じゃなくて、短いメッセージだった。



木村
木村
💬これ、私じゃないかも



その下に、
すぐもう1件メッセージが届く。



木村
木村
💬もし明日、私が先に教室にいたら











少し間が空いて、
最後の一文が送られてきた。















木村
木村
💬絶対に話しかけないで

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