【次の日】
教室に入ってきて、1番目に声を上げたのは、星野だった。
教室の端。
普段は何もないはずの場所に、
見覚えのある、古びたロッカーがぽつんと、
まるで当たり前のように佇んでいた。
教室にいる他の生徒達は、
特に気にしている様子がなかった。
それが余計に気持ち悪かった。
一同が騒然としている中、授業開始のチャイムが鳴る。
キーンコーンカーンコーン…
教師に、いつも通り先生が入ってくる。
他のクラスメイト同様、特になにも反応することなく、
いつも通り授業を始める。
休み時間。
みんな自然と、
ロッカーの前に集まっていた。
昨日よりも、なんだか嫌な雰囲気をまとったロッカー。
扉の隙間が、妙に黒く見える。
全員が、一斉に木村を見る。
少しの間、沈黙が続いた。
また少し沈黙が続いた。
木村が、ロッカーの取っ手に手をかける。
その瞬間。
田中の声で、全員が止まった。
昨日は、鍵なんてついていなかった。
少なくとも、誰も見ていなかった。
でも今、取っ手には確かに、
小さな銀色の鍵がぶら下がっていた。
しかも。
鍵についていたのは、中田の好きなキャラクターが映っているアクリルキーホルダーだった。
いつも中田のカバンについているキーホルダーと同じ。
いや、同じじゃなくて、それそのものだった。
中田が慌てて自身のカバンを確認する。
カバンを見るなり、顔色が変わった。
星野の制止をよそに、木村が鍵を開ける。
カチッ。
やけに軽い音がした。
そして、ゆっくり扉を開ける。
中に入っていたものは、昨日とは少し違っていた。
名札やノートはそのまま。
でもその手前に、
新しいものがいくつか増えていた。
みんなの私物が、手前に置かれていた。
ロッカーの奥には、昨日のノートもあった。
木村が、ゆっくりそれを手に取る。
ページをめくる。
昨日見たときは、みんなの名前が書いていた。
でも今日は、
名前の横に何かが書き足されていた。
一人ひとりの名前の横に、
それぞれ違う日付が書かれていた。
木村が黙る。
ノートを見つめたまま、答えない。
中田の名前の横に書かれていた日付は、
"今日の日付"だった。
しかも、その横には、
薄く丸が付いていた。
その時。
『返して』
全員が、一斉に顔を上げた。
その声は、昨日帰り際に聞こえた、
中田の声によく似た、あの声だった。
中田が一歩後ずさる。
その瞬間だった。
バタンッ!!!!
ロッカーの扉が、勢いよく閉まった。
木村の手が挟まりかけて、
全員が短く悲鳴を上げる。
中田の顔色は、真っ青だった。
目線が、ロッカーに釘付けになっている。
その日の放課後。
中田がいなくなった。
最初は、ただ先に帰っただけだと思っていた。
でも、
カバンは教室に残っていて、
スマホも机の上に置いたままだった。
先生に聞いても、
としか言われなかった。
六村が、教卓のうえにあった出席表を指さした。
そこには、今日の出欠が書かれていた。
中田の名前の所だけ、
赤いペンでこう書かれていた。
『転校』
そう言って、六村はゆっくりと後ろを指さした。
教室の後ろ。
あのロッカーの扉についていた古い名札は、
中田の名前から変わっていた。
そこに書いてあったのは、
『木村』という名前だった。






















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。