「和くんに酷いこと言っちゃった…」
私の頭の中は自分を責めるばかりだった。
恋愛禁止だし、和くんと私なんかが…と思うと、胸が締め付けられる。
「まだ、和くんの事全部は知らないし、自分の気持ちもわかんない。」
私は焦りと不安でいっぱいだった。
「私、なんでこんな所に来ちゃったんだろ。」
ため息をつくと、部屋をノックする音が聞こえた。
メイド 失礼します。
「どうされましたか?」
メイド お母様からの伝言です。
「ありがとうございます。」
そういうとメイドは軽い足取りで部屋を出て行った。
紙を見てみると
「今日の夜7時からパーティーがあるから参加しなさい。」
パーティー!?!?
なんで、私達がそんな所へ?
働く為に来たんじゃないの?
何かがおかしい。
私はお母さんの部屋に向かった。
「お母さん、働く為に来たんじゃないんでしょ?」
お母さん 何を言ってるの?
「だいたい、住み込みで働くっていってたけど、何にも仕事してないし、あんなに豪華な部屋に料理に学校だなんて、嘘なんでしょ?」
お母さん 誰から聞いたの、
「誰からも聞いてないよ。自分で気づいて、自分で言いに来た。」
お母さん 仕方ないわね。説明してあげる。
お母さんは再婚したの。
「!?」
この屋敷の支配人とね。
つまり、ここに住む5人の父親とね。
「再婚?なんでそんなことを?」
お母さん 許せなかったのよ。あんなに貧しい暮らしをさせて、あんなに辛い思いをしたのになにもしてくれなかった。だから、幸せになろうと思ったの。それだけ。
「お母さん?それ、お父さんの事言ってるの?」
お母さん 思い出させないで。
「お父さんは、優しくてなんでもしてくれる頼りになる人じゃなかったの?そう言ってたじゃん。」
お母さん 違う。あの人が死んだ理由知ってるの?
「急性心不全じゃないの?」
お母さん 違う。睡眠薬の多量摂取よ。
「なんで…。なんで嘘ついたの?」
お母さん あなたを悲しませたくなかったの。
「じゃあ、夜に聞こえてたあの激しい音は、お父さんなの?」
お母さん そうよ。本当は夕方に終わる仕事も、キャバクラやパチンコに行ってから帰って来てた。家に帰って来てからさ、酒にくれて、女癖も悪い。浮気もしてたのよ。
「私、嘘なんかついて欲しくなかった。」
「お母さんは今幸せ?」
お母さん ええ、こんなに豪華な屋敷にも住めて、豪華なお食事もでて、素敵な旦那もいて。
息子もいる。なに不自由ないでしょ?
「私、幸せがこういう事なら出ていくよ。」
「母親に嘘つかれるなんて。」
私は必死で走った。どうなっているかも分からない屋敷で。でも、周りは部屋だらけ。
自分の部屋が分からなくなった。
涙で前が見えない。我慢しようとしても余計に涙が溢れる。
「もう、だめだ。」
そう思って私は泣き崩れた。
屋敷に響き渡るぐらいの大声で。
すると、優しい声が聞こえた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!