昼。
朝のあの空気のまま、時間だけが進んでいた。
学校組はそれぞれ家を出たけれども、誰も言ってきますを明るく言えなかった。
蓮は玄関に立ったまま、靴を履きながら一度だけ振り返る。
亮平の答えない。
その沈黙が答えだった。
短い会話。
玄関のドアが閉まる音がやけに大きく響いた。
バタン。
その瞬間、まいとの肩がびくっと揺れた。
亮平は何も言えず、キッチンで立ち尽くす。
今日は学校がお休みな大介。
大介が不安そうに見上げる。
無理矢理作った明るい声。
昼ご飯はうどんだった。
いつもなら大介が喜ぶのに今日は箸が進まない。
まいとがぽつりと言う。
亮平は一瞬、言葉に詰まる。
嘘では無いけど、本当でもない答え。
まいとは俯いた。
その言葉に、大介の目からぽろぽろと涙が落ちた。
亮平は2人を抱き寄せる。
でも、自分の胸の奥が一番大丈夫じゃなかった。
夕方。
学校から帰ってきた子供たちは、家の空気ですぐ察した。
照が靴を脱ぎながら聞く。
亮平の答えは、それだけ。
康二が小さく言う。
誰も否定しなかった。
まいとと大介はリビングの隅で寄り添うように座っていた。
大介が小声で話しかける。
翔太は少し驚いた顔をして、すぐにしゃがむ。
優しく、でもはっきり。
その横で涼太は黙ったまま拳を握っていた。
そう思うのに、朝の光景が頭を離れない。
辰哉はその様子を全部見ていた。
それが一番、まずいことだとわかっていた。
夜
夜ご飯の時間になっても蓮は帰ってこなかった。
亮平の声に誰も反対しない。
食卓に並んだ料理はどれも亮平の得意なものだった。
それが逆に胸に刺さる。
まいとが言う。
誰もすぐには答えられなかった。
亮平はそう言って席を空けたままにした。
食事中、会話は少なかった。
箸の音だけが響く。
突然。
ガチャ。
玄関の音。
蓮の声。
一瞬、全員の顔が上がる。
まいとが立ち上がりかけたが亮平の表情を見て止まった。
亮平の声は冷たかった。
蓮も短く返す。
その空気に大介は目が潤む。
小さな声。
耐えきれず、大介が泣き出した。
まいとも堪えていた涙が溢れる。
翔太が立ち上がる。
2人に向かって優しく。
涼太は立ち上げりかけてまた座った。
もう迷いが胸を締め付ける。
亮平が言った。
蓮は視線を逸らす。
その言葉で、全てが決まった。
辰哉はその瞬間をはっきりと見ていた。
普段、怒らない自分が。
こんなにも腹の底が冷えるほど、怒りを感じるのは久しぶりだった。
まいとと大介は泣き疲れて、翔太に抱き寄せられていた。
翔太は何度も言う。
その言葉を信じたいのに、
誰も確信を持てなかった。
それぞれが部屋に戻った後。
辰哉だけがリビングに残った。
静まり返った家。
空いた父の席と背を向けたままの母。
小さく、でも確かな声。
こうして、1日は完全に壊れたまま終わった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!