色々あった昨日だった。
………というかありすぎた。
しかし今日は心機一転、平常心で頑張るぞと意気込む…が、どうしても昨日のことを思い出してしまう。
熱っぽい身体に、溢れ出す声。
そして最後に言われた、殺してしまいたいぐらい好きという言葉。
寒気がするほど感情の込もった言葉だった。比喩、ではあるんだろうけど、本当の気持ちでもあるような気がして。
真偽は分からない。けれど用心するに越したことはないだろう。一度距離を取ってまた冷静に話そう、ということで今日は白町と関わらないと決めたはずだった。
校門の前に立っているのは、間違えようもない、本物の白町だった。
何を言うべきか、それとも言わないべきか。迷って目を右往左往させる千夏に、白町はくすりと可憐に笑う。
気を遣われた…と思ったけど、よくよく聞くと『どうこうしようとは』の中身が気になって仕方ない。何だ、何をするつもりだったんだ、殺されるのか俺。
けらけらと笑う白町にぞっとする。
一度本性を見せたからか、言う事がすごくなってきている。というかそれよりも、何か凄みのようなものを感じる。白町ならやりかねない、というような危うさを。
と、そこで遠くからクラスの女子に声を掛けられた。
答えたところで気付く。隣にいるのは、いわゆるヤンデレだということに。
何故か、早く弁明しないと、と思って白町の方を振り返ると、白町は神妙な顔で何かを呟いていた。
どこからか取り出した、いかにも危険そうな赤いボタンを押そうとするのを、急いで奪い取って阻止する。
これ、押したらガチで爆発するのか…?
試したくなる気持ちもあるがそれ以上に恐ろしすぎるので、とてもじゃないが押せない。
奪われた白町は少しだけ残念そうな顔をしている。
白町の呟きが聞こえたけど怖すぎるので聞こえないフリをすることにする。
なんだこの物理的地雷女子は。
どこを踏んだら──何をしたら物理的に爆発するか全く分からない。
と、そこで救世主が現れる。
呑気に現れたのはひなただった。
危険地帯をようやく脱した人の気持ちって、こういう感じなのだろうか。
ほっとして勢い余って抱きついてしまう。
と、そこでまたひどい悪寒に襲われる。
声が怖い。いつもと変わらない穏やかな口調のはずなのに、その裏にある殺意がダダ漏れで怖すぎる。
ぴゃっと悲鳴を小さくあげて、急いでひなたから離れて両手をあげた。さしずめ僕の姿は怯えるネズミか何かだ。
幸いにも、白町の審議には引っかからなかったようで安心する。それにしてもあの殺意は尋常じゃなかったが。
お前の命の恩人なんだぞ!とはとても言えなかったけれど、ひなたの知らぬところでひなたの命を救った身としては『キモイ』という言葉に噛みついてしまう。
ひなたの言葉の後半部分は華麗に聞き流して白町がふふと楽しそうに嬉しそうに笑う。
仲良しという言葉を嬉しく思うぐらいには、まともな感性も持ち合わせているらしい。
…まあ、ヤンデレだけど。
後ろから声を掛けられて、三人揃って振り向くと、南海が仁王立ちをしていた。
軽やかに交わされる言葉の応酬に安心する。
いつも通りの日常が戻ってきた感じだ。
ちらりと白町を見るが、今回はセーフだったようで、にこにこと笑っている。
胸を撫で下ろす千夏をよそに、南海が声をあげる。
南海は言いながら後頭部の寝癖を撫でつけて直そうとしてくる。
と言ったところで、また刺すような視線と殺意を感じて飛び退く。
困惑した、というかそれを通り越して若干引いた顔の南海に慌てて首を振る。
必死に首を振る千夏をよそに、白町はにこにこと無害そうな笑みに戻っているし、ひなたと南海はこそこそと何かを話し合っている。
聞こえてくる会議に思わずツッコむ。
心配してるのか、ただ単に面白がっているだけなのか。おそらく後者なのが悲しい。
白町の指摘に三人ともハッとする。
いや、この場を混乱させた張本人は白町なのだけれど。
いや、正しくは三人ではなく二人だった。
遅刻上等、校則違反上等、修羅場上等の三拍子揃ったクソ野郎のひなたには、遅刻なんて取るに足らないものだろう。
何だかんだ言いながら置いていかれるのは嫌なようで、渋々着いてくる。
千夏たちの教室は校門から一番遠くて、最上階である三階の一番端の教室だ。走るまではいかなくても、今ののんびりとした遅すぎる足取りでは間に合わないかもしれない。
女子達が愚痴り合う一方で、
彼氏持ちの女子に手を出すクソ野郎の話を聞いて頭を抱える千夏と、女子の和やかな会話の差がすごい。
というかほんとに懲りねえなこいつ…。
白町にすらドン引きされている。
ぶっ飛んでいる白町に引かれるぶっ飛び具合、すごいとは思うが、よくよく考えると褒めることでもなかった。
くい、と袖を引っ張られて、南海は千夏の耳元に手を添えて小さく囁く。
鋭い。概ね合っている南海の指摘に心の中で感嘆の声をあげる。
前を歩く白町をちらりと見る。
穏やかな笑顔でひなたにだいぶきついことを言っているけれど、昨日よりも何か解放された感じで、素に近い。
ヤンデレではあるけれど、旧知の仲だ。
満足そうに微笑む南海が、何だかひどく大人びて見えて思わずドキッとする。
振り向いてにこりと笑う白町の目の奥が笑っていない。青ざめて背筋を伸ばす。
やばい、あれは殺る目だ。
いつ起爆スイッチを押されるか分からない、なら押せない状況にしてしまえと思い叫ぶ。
慌てて走り出す千夏の様子が面白かったようで、白町はすっと冷えた表情を消した。
不服そうなひなたを置いて、隣に追いついてきた白町がくすりと笑う。
引き攣った笑顔で返事をする千夏を、上機嫌に笑って見つめる白町の瞳の奥の熱が、この先の日々の波乱を予期させるようで、背筋を冷たい汗が一筋流れた。
こうして、白町との、一歩道を踏み外せば学校ごと消える、危険な青春が始まった。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。