第2話

第1章︰不老不死不傷の危険
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2024/04/28 12:00
ニュースはどのチャンネルも1つの出来事をずっと解説している。
夕方や夜になってもニュースしかやっていないから、バラエティ番組も見れたもんじゃない。
「それにしても、神様って本当にいたとはねぇ。」ねっとりとした口調で母が言う。
おれがそっけなく「ふぅん。」と返すと、母が何かを諦めたように「今日の夕飯はどうしようかしら。」と言ってキッチンへ向かった。
「キノコだけは勘弁してくれよ。」おれはそう言い残して、階段を登っておれの部屋に逃げ込んだ。
「これでいいのかな。」おれはスマホを起動しながらポツりと言った。
いまだに神様の存在を科学や何かで勝手に解説して、それを突き付けてくる変な専門家が出したニュース速報の通知がずっと画面の上部分を占領している。
通知の中に、サキからの連絡が混じっていた。危うく見逃すとこだった。
サキ。クラスメートで、先週クレーン車から落ちたブロックの下敷きになって病院に搬送された。
ニュースや母の情報では、意識不明の重体で、いつ死んでもおかしく無いレベルとのこと。
おれはサキとの通話ボタンを押した。
『はい。』2コールほどして、電話が繋がった。
全人類が不老不死不傷になったのは一昨日おととい。不死と不傷になったことによって傷が回復して意識を取り戻したんだろう。
「もう大丈夫だな。痛みはまだあるのか?」おれはすこし前のめりになって聞いた。
『全身傷一つ残って無いし、問題なく動かせれるよ。ただ、いくら不老不死不傷になっても痛みは感じる。』サキは元気そうに答えてくれた。
「やっぱり、痛みは感じるんだな。」おれは一昨日から膨らませ続けていた妄想が確信に変わったのを感じた。
サキが『じゃあ、また明日学校で。』とそっけなく言った。おれが母にとった態度をそのまま返された気がして、一瞬母とサキは繋がってるんじゃないかとも思った。
不老不死不傷になったらどうなるのか。
不老は全身の細胞分裂が停止し、万全の状態で分裂の進行が止まることになる。
つまり細胞分裂の果てである新生児、赤ちゃんが生まれてこなくなる。これは少子高齢化が進んでいるこの社会において悪影響を及ぼさないのか。だって、老人達の死も無くなってしまうんだ。
不死。そのままの意味で、どんな致命傷を受けても脳は機能し、心肺や脈が止まることは無い。不老のデメリット、内臓の細胞分裂が止まり、生命活動を維持できなくなる、というものも不死が止めている。
不傷。傷がつかなくなり、元々の傷も癒える。サキはこれで助かった。ただし、痛みは感じるらしい。
これらによって1つの危険がおれ達に迫っていることを、おれはいち早く察知したつもりだった。

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