第2話

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2025/09/21 07:52 更新


冬の夜。炭治郎の家に漂う火の温もりの中で、突然空から落ちてきた二人の少年──叶と葛葉。
叶はまるで天使のような顔で弱々しく微笑み、「助けてください」と言った。
炭治郎はすぐに“匂い”で悟る。
「……人間じゃない」
それでも、雪山に置き去りにすることはできず、優しい炭治郎は彼らを家に迎え入れてしまった。

妹や母も最初は警戒したが、叶があまりにも無垢な笑みを浮かべるから、誰もが油断してしまう。
葛葉は黙して言葉少なく座り、剣を傍らに置いたまま、冷たい瞳で外を見ていた。


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夜更け。突然、家の戸を叩く音。
雪を踏み荒らすような、圧倒的な気配。

鬼舞辻無惨。

家の中の空気は凍りついた。
母も子も恐怖で動けなくなる中、炭治郎だけが前に出ようとした──その瞬間。

叶が立ち上がり、まるで舞うように無惨の前に立ちはだかった。

「どうか……僕たちを仲間にしてください」

炭治郎は耳を疑った。
「なっ……!? お前たち……!」

無惨の目が細まり、冷笑が浮かぶ。
「人間風情が……私に頼むだと? 命乞いならば首を垂れるがいい」

だが葛葉も一歩前に出て、剣を逆手に構え、鋭い視線を返す。
「命乞いじゃねぇ。俺たちは……生き延びるためじゃなく、強くなるためにお前を選ぶ。背を預けるのはこいつ(叶)だけだが、力を手に入れるなら誰にでも牙を剥く。――それが俺たちだ」

無惨の表情が一瞬だけ揺れた。
普通の人間なら怯えて膝をつく。
しかしこの二人、恐怖よりも「欲望」を前に出す。

「面白い……」
無惨の赤い瞳が妖しく輝き、次の瞬間にはその血が二人に注ぎ込まれた。


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叶は目を見開き、天使のような顔で笑った。
しかしその微笑みの裏で、眼の奥には人を試すような光が宿る。
「……これが、鬼の力」
伸びた爪で床をかすめると、木目が弾丸のように抉れた。

彼の手に現れたのは漆黒の銃。
銃口から漂う匂いは“死”。狙ったものを必ず仕留めると告げていた。

葛葉は剣を構え直す。
その刃は鬼の力に染まり、黒よりもなお深い闇を帯びる。
「……いいな。これで誰も、俺たちの邪魔はできねぇ」

二人が同時に笑ったとき、炭治郎の心臓は潰れそうに締めつけられた。


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◆ 炭治郎の感情

「どうしてだよ……!」
炭治郎は震える声をあげた。

母や弟妹はただ怯えていたが、炭治郎にははっきりとわかる。
叶から漂う匂いは“欺瞞”と“裏切り”。
葛葉から漂うのは“決意”と“覚悟”。

「お前たち……人の家に助けを求めておいて……! どうして鬼なんかに!」
怒りと哀しみと、自分の優しさが裏目に出た悔しさで、炭治郎の瞳は濡れていた。

叶は振り返り、まるで子供をあやすように甘い声で言う。
「炭治郎くん、優しいね。でも、その優しさが僕らを助けたんだ。――これが僕の生き方だよ」

葛葉はさらに冷たく言い捨てる。
「お前が匂いで気づいてたのに見逃した時点で、もう詰みだ。お前の甘さは、俺たちの武器になった」

炭治郎は奥歯を噛みしめる。
「俺は絶対に……お前たちを斬る。どんなに……どんなに笑っていたとしても……!」

無惨は愉快そうに笑う。
「いい……実にいい。人と人との情の繋がりこそ、最も甘美な餌だ。くろのわ、お前たちは今日から私の“駒”だ」


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こうして、天使の顔を持つ狙撃手・叶と、黒剣を振るう冷酷な剣士・葛葉。
二人は ChroNoiR(くろのわ) として、十二鬼月の影に立ち並ぶ存在となった。

だが炭治郎の胸には、助けてしまった罪悪感と怒りが重く残り、
「いつか必ず、あの二人を人としての道に戻すか、斬る」
と、強烈な決意が刻まれたのだった。


雪が深く降り積もった夜。
無惨は嗤いながら、炭治郎の家を血で染め上げた。
母も弟妹たちも、抵抗する間もなく切り裂かれ、息絶えていく。

ただ、炭治郎と禰豆子だけは気絶させられ、血の惨状を見ないまま倒れていた。


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静かな雪の夜。血の匂いが辺りに満ちる中、葛葉がふたりの傍に歩み寄る。
その目は氷のように冷たく、それでいてどこか哀れむような影を帯びていた。

「……お前らに真実を残す必要はねぇ。絶望を抱いたまま生きるより、わけも分からず苦しんだ方が……いいだろ」

彼は伸ばした手で炭治郎と禰豆子の額に触れる。
鬼化して得た能力──人の記憶を抉り取り、塗り替える。

炭治郎と禰豆子の頭から「鬼と葛葉と叶が家に現れた」という記憶は削ぎ落とされ、
目覚めた時にはただ「家族が何者かに殺された」現実だけが残されるようになった。

葛葉の胸中にわずかな痛みが走る。
「……俺が壊したんだ。これでお前は、俺を憎むこともできねぇ」
そう吐き捨てると、叶が静かに肩を叩いた。

「いいんだよ、くーちゃん。憎まれるより……利用する方が、楽しいでしょ?」
その声はやわらかく、まるで親友を慰めるようだった。


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朝、雪が白く光る中で炭治郎は目を覚ます。
目の前に広がるのは、赤く染まった床と冷たい家族の亡骸。
「……う、あ……」
何が起きたのか理解できない。心がついていかない。

禰豆子の小さな震える声だけが耳に残る。
「お兄ちゃん……みんな、動かない……なんで……?」

炭治郎は崩れ落ちた。
涙が雪を濡らし、声にならない叫びが喉を突き上げる。
やがて駆けつけた村人に伝えると、ひとこと。

「それは鬼の仕業だ」

その瞬間、炭治郎の胸に憎悪と誓いが芽生えた。
「絶対に……絶対に鬼を斬る。もう誰にも、俺と同じ思いはさせない」

その誓いが、彼を鬼殺隊への道へと導いていった。


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炭治郎が村へ走り、必死に情報を集めている間。
禰豆子はひとり、家に残されていた。
泣き疲れ、何度も家族の亡骸に縋りつく。
その時、雪明かりの中に現れたのは──叶だった。

天使のような微笑みを浮かべ、静かに手を差し伸べる。
「……つらいね。大切な人がいなくなるって、こんなにも苦しいんだね」

禰豆子は堪えきれず、叶の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
「助けて……お願い……」

叶は少しだけ目を伏せ、計算を巡らせる。
──利用価値がある。炭治郎が敵になった時、最も心を揺さぶるのは妹だ。
人質として使えるし、彼女の心を縛っておけば、他の隊士も同じように崩せる。

それでも外側の顔は天使そのもの。
叶は柔らかな声で囁いた。
「いいよ……僕についてきて。どんな時も僕を信じてくれるなら、絶対に守る」

涙で顔をぐしゃぐしゃにした禰豆子は、疑いもしなかった。
「……うん。信じる」

彼女はその言葉を飲み込み、叶の後を追って雪の中に消えていった。


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村で話を聞き終え、家に戻った炭治郎。
そこで彼が見たのは──誰もいない家。

禰豆子の姿が、どこにもなかった。
まだ生きていると思っていた唯一の家族。
支えになるはずの妹。

「……禰豆子っ……!? 禰豆子ぉおお!!」

声を枯らして叫んでも、返事はなく、雪の山に吸い込まれるばかり。
炭治郎の胸に、どうしようもない喪失感と自責の念が渦巻いた。

「俺が……俺がもっと早く戻ってれば……!」
家族を失い、妹すら守れなかった。

その日から炭治郎は、悲しみと怒りと喪失感を背負いながら、ただ鬼を斬るために生きることを決意した。


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一方その裏で──。
叶は無垢な笑みを浮かべながら禰豆子を連れ、葛葉と合流する。
「ねぇ、くーちゃん。これで炭治郎くんはもう、僕らを憎むしかない。
ふふ、最高の舞台が整ってきたよ」

葛葉は横目で叶を見やり、冷たく言う。
「……お前って本当に、天使の皮をかぶった悪魔だよな」

叶は笑った。
「違うよ。僕は、ただ“楽しい”ことをしてるだけ」

雪が深く降りしきる夜、くろのわの影はますます濃く、炭治郎と禰豆子の運命を絡め取っていった。

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