ものすごく怒鳴り声が大きな屋敷に響く。
ここは払い屋の名家十六夜家。
怒鳴り声の主の男は十六夜家の当主十六夜竜也だ。
薊はそう言うとバタバタと逃げだして行ってしまった。
竜也が引き留めようとするがその時にはもう薊は居なかった。
薊はバタバタと屋敷の中を駆け回っていた。
人間を恨みながら死んだ者は鬼となる。
鬼はその恨みから人を恨み、殺し喰らう。
元人であって人の敵である鬼。
そんな鬼を払うことを生業としている一族十六夜家。
霊力を利用し鬼を殺し滅ぼす。
何百年もの間そうして日本を支えてきた。
そんな十六夜家の投手の娘十六夜薊。
薊の兄・雨月は100年に一度の天才と呼ばれる払い屋で薊はとても期待されて育った。
だが薊の霊力は微弱。
間違いなく十六夜家で最弱であった。
薊は十六夜家本殿の裏にある裏山をのぼりながら1人でため息をついた。
この山は十六夜家の敷地で幼い子供達が練習場としてよく利用している。
薊はブツブツと呟きながら山の裏側へと向かった。
裏側まで来るとさすがに修行する子供達もおらず薊は気分が落ち込んど時によくひとりで散歩に来ていたのだ。
そう言って思い切り地団駄をふむ。
すると突然足場が崩れはじめた。
大きな悲鳴と共に薊は影の下まで真っ逆さまに落ちてしまった。
薊が半身を起こす。
幸い大きな怪我は無いようだ。
薊が落ちた場所は今まで訪れたことの無い大きな洞窟の前であった。
上を見ても先程の道は無い。
すると突然洞窟の方から人の声がした。
薊は不審に思いながらも声がした方へと向かう。
洞窟の奥は真っ暗でほとんど何も見えなかった。
薊が問いかけるが返事は無い。
ある程度進んだところで引き返そうと方向を変える。
すると薊の足になにかが引っかかった。
ビリッ
嫌な音と共に薊がひっくり返る。
どうやらなにかに足を引っ掛けたらしい。
薊がひっかけたものを掴む。
それは縄のようなもので等間隔に札が貼ってある。
そう、十六夜家の封印の札が。
その札のついた縄は先程薊が引っかけたことにより引きちぎれたようだった。
だがそんなに薊の願いも虚しく洞窟の奥の方から禍々しい妖気が流れてきた。
ザッザッと誰かが近づいてくる。
逃げようとしたが足が震えて立つことができない。
2つの火の玉と共に現れた白髪の男。
赤い目、2本の長い角、美しい顔立ち。
そして意思疎通できる知力。
目の前の男は明らかに強い鬼であった。
その顔は人間とは思えないほどとても美しかった。
ニヤリと笑って薊の顔を強引に掴む。
薊は抵抗するすべがなかった。
男鬼はそうつぶやくと笑って薊から手を伸ばした。
すると男は突然大笑いをしだした。
クックッと笑うと男は再び薊の顔を掴むと今度は自身に寄せて口付けをした。
突然の事でテンパった薊が男を突き飛ばす。
だが時すでに遅し、男の額には赤い紋様が浮かんでいた。
そうなのだ。
これは十六夜家の払い技術の一つ、鬼を自身の式神として従えさせ戦わせる。だがその為には殺さず、殺されず相手に口付けをする必要があり基本的には上級の払い屋が使う技だ。
それを今男は自ら無理やり薊にさせたのだ。
朧…かつて最強の鬼と言われ突如その名を歴史から消した歴代最強の鬼。
嘘かと思われたがその圧倒的な鬼力がそれを嘘ではないと物語っている。
こうして、最強の鬼×最弱の払い屋の世にも不思議な主従関係が始まったのであった。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!