そう言って探し始めてから30分経った。
1階を重点的に探した。
赤羽君は、いなかった。
同じような言葉を繰り返す優花ちゃんには、やっぱり
責任感があると実感させられる。
それと同時に、私への質問に少し圧を感じて
どう答えるか迷った。
優花ちゃんと一緒にいたいけど、トラウマは作りたくない。
だから、図書室までは一緒に探して、図書室に着いたら
分かれることにした。
赤羽君の名前を呼びながら歩くけれど、当然声は返ってこない。
姿を見つけることもなかった。
いたのは窓の方を見てぼーっとしている結人ぐらいだった。
優花ちゃんはまだ探すつもりなのかな。
少し不安になったけれど、きっと大丈夫だと
信じるしかない。
図書室に入ると、途端に視界が本棚で埋め尽くされる。
その中に小さな影があることに私は気が付いた。
そして、私は声をかけた。
通路から背を向け、何冊かの気になった本を隣に積み上げる。
我ながらとんでもないメンタルだと思う。
普段はちょっとしたことで傷ついてしまうのに、
こんな時だけ突拍子もない行動ができてしまう。
新しく1冊の本を開こうとした時、背の方で誰かの足音が響いた。
…緑川さんだ。正直1人でいたかった。
そう言葉を返して、目の前の適当に手に取った本に視線を落とす。
少しくしゃりと曲がった厚紙の表紙と手書きの文字。
確かに日記みたいだ。
『夏と冬』
これは遠くない過去の話、あるところに1人の少女がいる。
名前は樋本雪。「雪ちゃん」「ゆきりん」と呼ばれている。
彼女には親友がいる。自分よりも背が高い、丸い大きな目と
綺麗な長い黒い髪が特徴の女の子。
その子は、彼女のことを珍しく「雪」と呼んだ。
彼女は、その子を「なっちゃん」と呼んだ。
ずっと友達だった。
「なっちゃん」は、彼女と親友になってから数カ月経った
とある日、学校を休んだ。
『ちょっとした風邪みたい』
そう連絡が届いて、彼女は安心した。
でも、「なっちゃん」はそれからしばらく学校を休んだ。
彼女には友達が他にもいたから一人ぼっちにはならなかった。
それでも、心のどこかでは「なっちゃん」がいないことに
寂しさを感じていた。
ようやく「なっちゃん」が学校に来た時_「なっちゃん」は
車椅子に乗り、荷物を持った母親と来ていた。
『どうしたの!』
彼女が問うと、「なっちゃん」の母親が事情を説明してくれた。
風邪だと思っていたけれど、生活から生じた重い病気だった。
今は顔の一部分や両足が麻痺していて、自由に動かせない。
『…これからも夏実と仲良くしてくれるかしら』
『勿論です』
押し寄せる悲しみを抑え、そう彼女は言い切った。
「なっちゃん」は、それから更に症状が悪化し、ほとんど
全身が動かなくなってしまった。
それでも、彼女は「なっちゃん」と親友でい続けた。
ここまで来ても、彼女は考えなかった。
"完全に「なっちゃん」を失うこと"を。
体育の授業の時、「なっちゃん」は必ず見学する。
その日も「なっちゃん」は当然見学していた。
彼女は一緒に見学するか迷ったが、元気なのに休むのは
良くないと考え「なっちゃん」を置いて授業に出た。
これが間違いだった。
その日の種目はバレーボールだった。彼女は試合に集中していて、
「なっちゃん」の方なんて見ていなかった_
何度か試合を重ね、時間的に最後の試合になる頃。
彼女のいない方のコートにボールが渡っていた。
返ってきたボールを受けるために、彼女はチームの作戦通り
ネット近くの左側にいた。
アタックが来る。そう思った時だった。
『…そろそろ死ねよ、八方美人女』
アタッカーの女の子の呟きが聞こえてきたような気がした。
ボールは、こちら側のコートを大きく逸れて見学者席の方に
飛んでいった。
『なっちゃん!前!』
そう言ったけれど、「なっちゃん」に声は届かなかった。
そのままボールは「なっちゃん」の顔にぶつかった。
「なっちゃん」は、そのまま倒れた。
授業が中断され、「なっちゃん」の母親の車から
病院に連れて行かれた。
でも、衝撃で脳の重要な部分の細胞が死んだ、だとかで
生き永らえなかったらしい。
「なっちゃん」は、そのまま死んでしまったみたいだ。
ボールを当てた女の子は、ミスだということにされた。
「なっちゃん」の家族に泣きながら謝っていたけれど、
教室で『避けないのが悪いよね』と言っていたのを知っている。
今日は、「なっちゃん」の一周忌。
『なっちゃんの苦しみが、いつか癒えますように。
幸せに暮らせていますように。なっちゃんが幸せで
いられる方法があるなら、私は何でもするよ』
そう呟くけれど、結局何もすることはできない。
彼女と「なっちゃん」は、生きている世界が
変わってしまったのだから。
読み始めてから数十分は経ったと思う。
最後まで読み終えたもののもう二度とは見たくない、
最悪のバッドエンド。
きっと今私は酷い顔をしているだろう。
緑川さんもなんだか暗い表情をしている。
どんよりとした雰囲気のまま、私達は顔を見合わせた。
小泉さんと一緒だ。そう思ってしまった。
あの本には続きがあるようだけれど、今は読めそうにない。
今は、とにかく明るい気持ちになれるような本が欲しかった。
今日でプリ小説を始めてから1年経ちました!
ありがとうございます!
















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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。