夕方。通学路＿＿＿＿

  弓道部への初参加からの帰り道、

  湊の少し後ろを自転車で走る。

  人通りも車通りも無い道なので

  並走しても問題は無いが

  中々隣を走る気にはなれない。

  湊は空を見ながらぼーっと

  自転車を漕いでいる。

  湊は常にぼーっとしてる感じだけど

  さすがに考えすぎている。

  やはり部活の事が気になるのだろうか。

  とくに何も無しに話しかけたせいで

  出てきた内容が思春期の息子と母親みたいな

  少し気まづい空気を醸し出している。

  湊の事だから、

  弓を引けない自分が100%悪いと

  本気で思っていそうだから心配になる。

  湊が半端な気持ちでは無い事は

  恐らくだけど小野木くんは

  理解しているのだと思う。

  ただ弓に本気だから、

  突っかかってしまっているだけだろう。

  少し慌てて湊が減速したことで

  長く伸びる影が隣合う。

  懐かしいような擽ったい感覚に

  唇が綻び、解けた緊張感から

  息を小さく吐き出す。

  小野木くんと湊の事は

  私が口を出さなくたって、

  解決に進むのだろう。

  ならば私がするべき事は

  女子部員のコーチとサポート。

  それから、自分の事を


  
  考えなくてはいけない。

  小さく意気込みペダルを踏む。

  まだ柔らかい陽射しの中を

  緩やかに走っていく。

  それは緩やかだが


  先刻よりも揺らぐことなく

  ただ真っ直ぐに進んでいた。

  小さな影を抱えながら


  走っている事には

  まだ気づかないふりをした。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

  翌日、朝＿

  何となく思い立って、

  湊の家にアポ無しで行こうと

  自転車を走らせる。

  湊の家の近くまで来た所で、

  門前に見覚えのある姿が。

  でもそれは湊では無く、

  側まで行き、声をかける。

  おそらく山之内くんは

  湊の為に出来ることを探しているんだろう。

  私と、同じく。

  湊の家のインターホンを鳴らすと

  すぐに湊のお父さんが出てくれた。

  湊はもう、出てしまっているらしい。

  久しぶりに会ったであろう

  山之内くんを見て、

  感慨深そうに話すお父さん。

  それから少し話して、

  湊を追うからとその場を後にした。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 
  数十分後、学校＿＿＿＿

  まだ人が居ない学校の敷地内を

  山之内くんと2人で歩く。

  心底楽しそうにそう言う山之内くんは、

  何故か忍び足で歩いている。

   そんな会話をしているうちに

  弓道場に着く。

  弓道場には入らずに、

  とりあえず様子を見ようと

  外のフェンス越しに場内を見る。

  湊は的前では無く、

  巻藁で練習していた。

  これも早気克服の練習なのだろう。

  私は早気にはなった事がなかったし、

  どんな練習をするのかなんて

  聞けたものじゃないので、

  詳しいことは分からない。

  だけれど湊は私が思っているよりも

  ずっと先に進んでいるんだ。

  本当、その通りだ。

  湊はすごい。

  でも＿＿＿＿

  友達の為に、本気になれるって

  すごいと思う。

  私はここまで出来なかったから、

  余計にすごいと思う。

  この湊の早朝練習にだって

  参加しようと思えばいくらでも出来る。

  だけどそれをしないのは

  湊に1人で考える時間を、

  向き合う時間をあげたいからでは無いだろうか。

  この前向きな気持ちが伝播して

  部の雰囲気も変わればいいなと

  心のそこからそう思った。

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