部屋の空気は、いつもより重い。
間接照明だけが、2人の影を長く落としている。
言葉少なに座る2人。
でも、いつもとは違う、張り詰めた空気が流れる。
視線を落とすと、ソファの肘置きで
自然に近づいた手先が、少し触れそうになっている。
軽く指を動かすその距離感。
触れるか触れないかの境界線。
理性では離れるべき距離。
でも、心は自然に近づいていく。
言葉のやり取りもなく、互いの心が確認し合う。
山田は、ゆっくり手を伸ばす。
その瞬間、伊野尾の呼吸が少し早くなるのが分かる。
視線が合う。
強がっているようで、少しだけ弱さが見える。
2人は、軽く触れるだけだが、確かに温度が伝わる。
心臓が早くなる。
声に出すと、嘘になるかもしれない。
沈黙の中で互いを感じるだけで、全てが伝わる。
伊野尾の目は、遊び心と真剣さが混ざっている。
誘いでも、試しでもなく、ただ、自分の心の正直さ。
でも、理性だけでは止められない。
ゆっくりと距離を詰め、 肩が触れ、 腕が触れる。
小さな接触だけで、胸の奥が熱くなる。
その距離で、笑いながら目をそらす。
でも、その笑顔が、心をさらに揺さぶる。
互いに認めながら、触れ合う距離にいる。
まだ完全に踏み込んだわけじゃないけど、
明確な境界線を越えた夜。
夜の静寂が、2人の鼓動を増幅させる。
——この夜、2人の関係は確実に動き始めた。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!