先輩はこの重くなってしまった空気を溶かすかのように、
そう言いながら頭を掻き、笑った。
私も、先輩に乗るように精一杯の笑顔でそういう。
私達はお互いにお互いをフォローし合うかのように、笑った。
そしてしばらくして、先輩が
と聞いてきたから、私は小さく頷いた。
部の集まりに戻ってきた私を見て察したのか、
梨咲は私の背中を一度、大きく撫でた。
そして何度も何度も小さな声で
と繰り返した。
そんな梨咲の様子にも涙が出そうで、
私は嬉しい反面、勘弁してくれって心の中で思っていた。
この恋は、突拍子もないものだった。
自覚のないうちに好きになり、
自分よりも先に友達に気付かれてしまい、
否定し続けた挙句、本当はそれが真実で。
意識すればするほど好きになって。
気付かないうちに大切な想いになった。
嬉しかった。楽しかった。
でも、切なかった。心が苦しかった。
そんな感情を行き来して、ここまで来てしまった。
よく分からない恋だった。
自分に見合わない、輝かしい人に恋をした。
切ない恋だった。
話せば話すほど、先輩と後輩でしかないことを感じた。
楽しい恋だった。
先輩の笑顔を見てると、自分まで笑顔になった。
忙しい恋だった。
色々な感情が溢れ出て、大変だった。
言い方は沢山ある。
表そうと思えばなんとでも言える。
でも、ひとつだけ、確実なのは。
先輩に、恋出来て良かった。
そんな私の感情は、
誰に届くことも無い、小さな小さな音声として現れ、
儚く消えていった。
END
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!