数日後の夕方、オフィスは徐々に静かになり始めていた。残業をしているのは、城崎と悠真、そして数人の社員だけ。
城崎はデスクに座り、資料を読んでいるふりをしながら、無意識に視線を悠真に向けていた。彼はパソコンに向かい、真剣な表情でキーボードを叩いている。その横顔は、少しだけ寂しそうに見えた。
(……また、あの顔だ。)
胸の奥が締め付けられる。声をかけたいのに、なぜか言葉が喉で止まる。冷たい態度を取ってしまった数日間が、二人の間に透明な壁を作ってしまったようだった。
「……佐藤。」
やっとの思いで声をかけると、悠真は振り向いた。その瞳に一瞬、戸惑いが浮かぶ。
「……あ、課長。何……?」
「……別に、何でもない。」
言えなかった。胸に溜まった想いは、結局届かないまま飲み込まれる。悠真の表情は少し曇り、再びパソコンに向き直った。
その夜、城崎は誰もいなくなったオフィスで一人、窓の外の夜景を見つめていた。届かない想いが、胸の奥で静かに疼く。
同じ夜、ベッドに横たわる悠真もまた、天井を見上げていた。
(……課長、やっぱり……俺のこと嫌いなのかな……)
触れた指先の温もりも、優しい声も、今は遠い夢のように思えた。二人の想いはすれ違ったまま、夜の静寂に溶けていく。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!