第12話

#12
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2023/04/15 11:53
シルクside.
走って、息も整わぬまま、目の前の錆びたドアを押し開けた。

俺の姿を見て驚く『彼』の姿に、間に合ったのだと肩の力が抜ける。

コツコツと響く足音に目を向けると、見知らぬ男がこちらに笑いかけていた。
研究長
返して、か。
シルク
っ、
空気が、冷えていく。
研究長
彼が、どんな「モノ」なのかも知らないのに?
シルク
...モノ?
モトキ
っ、あ...
シルク
...っ、
「やめてくれ」

そう言いたげな、悲痛な顔。
シルク
...彼が何者かなんて、関係ない。
シルク
だから――――、
研究長
君は、人間において1番大切なものはなんだと思う?
シルク
は、
研究長
人が持つべきもの。
研究長
いや、持たなくてはならないもの。
研究長
君は、なんだと思う?
いきなり何を言い出すんだ。
研究長
私はね、
目の前の男は、似合わない、何かを慈しむような笑みを浮かべた。

白と、紫が入り交じった花が舞う。

シャガの花が舞う。
研究長
「心」だと思うんだ。
研究長
嬉しい、悲しい、楽しい...。
研究長
物事への感情は全て心から生まれる。
研究長
もちろん、人を思いやる気持ちだって。
シルク
...
まぁ、筋は通っている。間違ってない。

でも、だからなんだって言うんだ?
シルク
...言っていることは、分かります。
研究長
そうかい。それは良かった。
研究長
じゃあ、
そう言うと、俺から視線を外した。

その目は、『彼』を射抜く。
研究長
パターン化・・・・・された感情に、意味はあるのかな。
研究長
こんな時は喜べばいい、こんな時は悲しめばいい...。
研究長
そうやって、教えこまれたことしか感じられない心なんて、必要なのかな。
モトキ
......必要、ないです...。
『彼』は、消え入るような声で、呟いた。

少し濁った、虚ろな目。
研究長
...シルクくんだっけ。
シルク
...っ、
研究長
君なら、もう分かっちゃったかもね。
この人が『彼』に向けた目は、冷たかった。

人に向ける目ではなかった。

まるで、
研究長
「これ」は、私の失敗作だよ。
研究長
心を発現できなかった、私の、唯一の失敗作。
研究長
何を想うことも出来ない、とても悲しいクローンだ。
まるで、ゴミを見る目だ。
シャガ:反抗、私を認めて

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