第11話

#11
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2023/04/07 11:00
モトキside.
ふっ、と意識が浮上した。

どこか、懐かしい夢を見ていた気がする。


...今俺は何をしてたんだっけ。
モトキ
...
ぼんやりした頭でそこまで考えた時、背中に悪寒が走った。


あぁ、そうだ俺は、
???
目が覚めたかい?
モトキ
っ!!
振り返ると、見慣れた男がそこに立っていた。

薄暗い倉庫のような建物の中、白衣の白色が妙に際立っている。

隣に近未来的なモニターのようなものが1列に並んでいる姿は、異質としか言えない光景だった。
???
...その顔は、私のことを忘れた訳では無いようだね。
モトキ
...先生。
少し、声が震える。
研究長
「研究長」と呼ばれ慣れているから、先生と呼ばれるのはやはり新鮮だね。
研究長
...その通り。私は君の「先生」だよ。
そう言うと先生は、人工物のような笑みを浮かべた。

心からの笑顔でないことは一目瞭然だ。
モトキ
っ、先生っ...!
粟立ち、震える体を押さえつけ、口を開く。
研究長
なんだい?ニコニコ
モトキ
ごめ、なさい...っ...!俺っ...!
モトキ
ごめんなさい...っ...!
研究長
...君は、
笑みが、消える。
研究長
謝れば、「消されない」とでも思っているのかな?
モトキ
っ...
研究長
私は君に全てを教えた。
研究長
何もかも劣っている君に、何回も、何回も何回も手を差し伸べてあげた。
研究長
そんな私から逃げたのは、どこの誰だい?
研究長
...間違っていたのは誰だ?
研究長
不完全な欠陥品は、誰?
モトキ
... ポロポロ
涙が静かに流れていくのが分かった。

辺りに静寂が広がる。

先生はモニターに目を向けるとため息を小さく吐いた。
研究長
...やはり涙が流れているだけか。ボソッ
研究長
まぁいい。どうせもう必要ない。
研究長
...あぁ、そうそう。
そう言うと俺の目の前に屈み、目を捉えられる。
研究長
君の友達には、3番を用意しておいたよ。
モトキ
...え...?
友達。

脳裏に朗らかに笑う『彼』が浮かぶ。
研究長
随分仲が良かったんだろう?
研究長
君の代わりにしては出来すぎているけれど、君が消えたと騒がれる方が面倒だからね。
研究長
ちょっとした時間稼ぎのようなものだけど。
研究長
これで、「モトキ」という存在を消さぬまま、君を取り戻せる。
研究長
君は消えるけど、存在は消えないから安心してくれ。
モトキ
っ...。
『彼』だったら、と思ってしまっていた。

だけど、もう、無理なんだ。

俺は、全てを無くしてしまう。
研究長
...ひとまず初期化してしまおう。無駄なものは排除するに限る。スタスタ
元々、何も無いのに。

これ以上奪われ尽くされてしまうのか。

ようやく、何かを得られたと思ったのに。
モトキ
...
モトキ
...っ、
...あぁ。やっぱり、だめだ。

こんな状況でも、響かない・・・・
研究長
...9番。こっちに―――――。
呼びかけられ、顔をゆっくり上げる。

その瞬間だった。
バンッ!!!!!
倉庫のドアが勢いよく開かれる。

夕日が差し込んで、思わず目を細めた。

位置も悪く、加えて逆光で、誰がドアを開けたのかが分からない。
研究長
...
研究長
...随分早かったな。
???
...すぐバレる嘘は、つかない方がいいと思いますよ。
モトキ
っ、えっ...?
この、声は。


太陽が一瞬、雲に隠れる。

俺の目に映ったのは、脳裏に焼き付いた『彼』の顔。
シルク
...モトキさんを、返してください。

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