モトキside.
ふっ、と意識が浮上した。
どこか、懐かしい夢を見ていた気がする。
...今俺は何をしてたんだっけ。
ぼんやりした頭でそこまで考えた時、背中に悪寒が走った。
あぁ、そうだ俺は、
振り返ると、見慣れた男がそこに立っていた。
薄暗い倉庫のような建物の中、白衣の白色が妙に際立っている。
隣に近未来的なモニターのようなものが1列に並んでいる姿は、異質としか言えない光景だった。
少し、声が震える。
そう言うと先生は、人工物のような笑みを浮かべた。
心からの笑顔でないことは一目瞭然だ。
粟立ち、震える体を押さえつけ、口を開く。
笑みが、消える。
涙が静かに流れていくのが分かった。
辺りに静寂が広がる。
先生はモニターに目を向けるとため息を小さく吐いた。
そう言うと俺の目の前に屈み、目を捉えられる。
友達。
脳裏に朗らかに笑う『彼』が浮かぶ。
『彼』だったら、と思ってしまっていた。
だけど、もう、無理なんだ。
俺は、全てを無くしてしまう。
元々、何も無いのに。
これ以上奪われ尽くされてしまうのか。
ようやく、何かを得られたと思ったのに。
...あぁ。やっぱり、だめだ。
こんな状況でも、響かない。
呼びかけられ、顔をゆっくり上げる。
その瞬間だった。
バンッ!!!!!
倉庫のドアが勢いよく開かれる。
夕日が差し込んで、思わず目を細めた。
位置も悪く、加えて逆光で、誰がドアを開けたのかが分からない。
この、声は。
太陽が一瞬、雲に隠れる。
俺の目に映ったのは、脳裏に焼き付いた『彼』の顔。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。