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第3話

♤ 02
81
2024/03/12 01:29









   『 ......あれ? 』

   私の額に冷や汗が伝った。
   今日は25℃越えの気温らしいのに、
   私の体をだらだらと気持ちの悪い液体が落ちていく。



   財布が無い。

  

   カバンの中を一生懸命漁っても見つからない。
   家を出た後にICカードを忘れたことに気づき、
   「 財布持ってるしいいか 」
   とそのままにしていたのだ。

   まさか持ってないとは。
   いやでも確かにカバンの中に入れたはず。


   頭が混乱と不安でいっぱいになる。

   もしかして、



  『 スられた......? 』
  「 はい、そうですよ 」


  『 ひっ!!! 』


   耳の後ろから聞こえた落ち着きのある声に、
   酷く驚いて私の声が駅に響いてしまった。
 
   振り返ると紫色の髪をした男子生徒が立っていた。
   しかもよく見てみると私と同じ学校の制服を着ている。

   彼は知らないサラリーマンの腕を掴んでいた。
   サラリーマンが着ているスーツのポケットの中には、
   正真正銘私の物である財布があった。


   
   『 これ、わたしのです 』
   「 どうします?駅員さんに突き出しますか? 」
   「 誤解だ!!!待ってくれ!!!! 」

   
   『 ...一緒に交番行こうね、おじさん 』

  
   私がそう言えば、美青年は麗らかに微笑んだ。

   二人で財布盗み野郎を交番に連れ込むと、
   おじさんは最近増えていた盗難事件の犯人であること
   が判明し、警官にとても感謝された。
   
   
  


   『 ありがとうございました、助かりました! 』
   「 困ってる人がいたら助けるのは当然です 」


   美青年にお礼を伝えて一礼する。




   

   「 ちなみに入学式の時間って何時でしたっけ? 」

   『 えっとたしか9時だった気が... 』


   腕時計で現在時刻を確認する。
   短針は8、長針は9を指していた。



   先程とは違う意味で、
   額にだらりと冷や汗が垂れてきた。

   





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