『 ......あれ? 』
私の額に冷や汗が伝った。
今日は25℃越えの気温らしいのに、
私の体をだらだらと気持ちの悪い液体が落ちていく。
財布が無い。
カバンの中を一生懸命漁っても見つからない。
家を出た後にICカードを忘れたことに気づき、
「 財布持ってるしいいか 」
とそのままにしていたのだ。
まさか持ってないとは。
いやでも確かにカバンの中に入れたはず。
頭が混乱と不安でいっぱいになる。
もしかして、
『 スられた......? 』
「 はい、そうですよ 」
『 ひっ!!! 』
耳の後ろから聞こえた落ち着きのある声に、
酷く驚いて私の声が駅に響いてしまった。
振り返ると紫色の髪をした男子生徒が立っていた。
しかもよく見てみると私と同じ学校の制服を着ている。
彼は知らないサラリーマンの腕を掴んでいた。
サラリーマンが着ているスーツのポケットの中には、
正真正銘私の物である財布があった。
『 これ、わたしのです 』
「 どうします?駅員さんに突き出しますか? 」
「 誤解だ!!!待ってくれ!!!! 」
『 ...一緒に交番行こうね、おじさん 』
私がそう言えば、美青年は麗らかに微笑んだ。
二人で財布盗み野郎を交番に連れ込むと、
おじさんは最近増えていた盗難事件の犯人であること
が判明し、警官にとても感謝された。
『 ありがとうございました、助かりました! 』
「 困ってる人がいたら助けるのは当然です 」
美青年にお礼を伝えて一礼する。
「 ちなみに入学式の時間って何時でしたっけ? 」
『 えっとたしか9時だった気が... 』
腕時計で現在時刻を確認する。
短針は8、長針は9を指していた。
先程とは違う意味で、
額にだらりと冷や汗が垂れてきた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。