なんて、小さく鼻歌を口ずさみながら
俺の後ろを着いてくる、天使。
あぁぁぁぁ………、しあわせ……。
目を輝かせて、
小走りでお菓子コーナーをざっと物色する。
その途中で、お菓子を2つ手に持って戻ってきた。
会計を済ませ、外に出る。
そういって元貴が連れてきたのは裏路地。
いや、路地と言えるほど広くは無い。
アパートが2棟並んでるとこの間。
ほっとしたような声を上げて、
しゃがみこんだその足元には……
くりくりの可愛い目
ぴん と立った耳
全体的には黒い毛だけれど、
おでこの辺りから三角形に白が入ってる
いわゆる、ハチワレ って言われる猫。
おまけに、靴下を履いたみたいに足が白い。
もずくと同じ、マンチカンぽい…?
いやいや、それよりも気になることが1つ。
なんて言って、照れくさそうに頬をかく。
驚いた。
あんな大雨の中、自分よりも
この小さい猫ちゃんを優先したんだって。
自分だってびしょ濡れで、凍えて蹲ってたくせして。
少しぎこちない手つきで仔猫を撫でる。
その横顔は、どこか物憂げで 寂しそうだった。
ゆっくりと俺の手を、仔猫の鼻先に持っていく。
ちょんちょん と向こうから触れてこられたら
「さわっていいよ」の合図。
そっ と 首のあたりを指でなでる。
すると、気持ちよさそうに目を閉じて
ごろごろ と喉を鳴らし始めた。
そのとき、ふと、ダンボールの中の缶詰に目が行った。
なんだかんだ、みんな飼ってやれないだけで
この子のことを愛してる人がちゃんといるんだな。
元貴もその一人。
なんだよ、お前も元貴にデレデレじゃんか。
俺の元貴なんですけど。
可愛いのは分かるけどさぁ……。
俺の元貴なんですけど。(2回目)
兄貴が紙皿を取りに食器棚へ向かう。
しばらくやってないから
どっか奥の方に行っちゃってるかもなぁ。
________ パリンッ!!!!
あぁー……。またやりおった。食器割り名人。
どんだけ食器割ったら気が済むんだよ、笑
なんて、二人で苦笑していたら
俯いたまま、ブツブツとひたすらに同じ言葉を繰り返す。
右手は、左の二の腕を強く掴んでいた。
俺の声なんて届いてないみたい
二の腕に爪を立てている。
くい込んで、血が出そうなほど強く、引っ掻いていた。
触れたかった。温めてあげたかった。
でも、身体が固まっちゃって何も出来なかった。
俺みたいな不器用なやつが下手に触ってしまったら、
簡単に壊れちゃいそうで。
怖かった。 ただ、怖かった。
俺より先に動いたのは 兄貴。
優しく、ぎゅっ て抱きしめてあげた。
兄貴は父さんに似て、俺より上背がある。
だからちょうどすっぽり収まるような感じで…。
いつもより、ずっと穏やかな声で「大丈夫だよ」って。
俺は、呆然と立ち尽くして、
それを見ていることしか出来なかった。
手を引いて、俺の部屋へ招く。
重たくて暗い空気にならないように、意識する。
いや、意識してる時点で上手くいってないのは分かるけど…
生憎、俺は兄貴みたいに強くないし器用じゃない。
今にも泣きそうな顔で、へにゃり と笑う。
世界一 へたくそな、えがお。
そう言って諭し続けるも、一向に腕を見せてくれない。
まるで、何かを隠してるみたいに。
でも服に血が付いたままじゃ落ちなくなる。
早く洗わないと と思って懇願し続けると
と、元貴が折れた。
嫌いに?腕を見せたくらいで?そんなことある?
と思い、思わず困惑したように声を発した。
と、ようやくお許しが出たので
元貴が着ている半袖Tシャツの袖をめくる。
目を疑った。でもそれと同時に、
あんなに見られるのを拒否していた理由に合点がいった。
日に当たらな過ぎた
その白い肌には、
さっき、自分で抉ってできた傷の他に
打撲や切り傷、火傷やらの " 跡 " が
その痛みを、苦しみを、
俺に訴えかけるように
色濃く、くっきりと 残っていた。
気が付くと俺は、ミミズの様に腫れたその傷跡を、
ゆっくりと 指先でなぞっていた。
そして、こう尋ねた。
そしたら元貴は、少し考えて こう言った。
自分自身を嘲笑するような、乾いた笑い。
……ダメだよ、だめだよ。そんなことしちゃ。
頑張って 頑張って、なんとか耐えてきた証なのに…、
それを、自分で嘲ちゃいけない。
俺より幾分か小さい身体を、
けれど、俺よりもずっとずっと
すごく大きいモノを背負っている身体を
抱きしめずにいられなかった。
「なんでも喋っていいんだよ」「全部教えて」なんて
そんな無理なこと言えないけどさ、
だけど、だけどせめて……
ぴんっ と張っていた糸が ぷつん と切れたように
俺の腕の中で わぁわぁ と泣き出した。
あぁ……やっと…、やっと
初めて、ちゃんと聞こえたよ。
ちゃんと伝わったよ。
俺の内側の、奥深くに。
_______ 元貴の声、ようやく、届いたよ。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。