🧡side
2年生になると、さらに時間の流れが早く感じる。あっという間に夏が来て、一学期ももうそろそろ終わりそう。
西畑先輩と会うことがないように、僕は先輩が絶対選ばなさそうな掲示委員を選んだ。今年になって同じクラスになった男の子、僕が掲示委員になった瞬間 掲示委員に立候補するくらい初対面からぐいぐいくるし、勝手に名前で呼んでくるしちょっと苦手。そんな子と2人きりでポスターの貼り替え作業なんて地獄みたいやし、1人で黙々と作業できる方が僕にとってはラッキー。
放課後になって、僕は決められたエリアのポスターを夏のものに変えていく。熱中症対策や水分補給を促すポスター、あとは地域の夏祭りのポスターとか。
西畑先輩のこと、実は全然忘れられてへん。いや、頭に浮かべてしまう頻度は確実に減った。やけど気を抜くとすぐ思い出して、その都度落ち込んでしまう。
忘れられるようにしないと、と意気込んで、黙々とポスターを貼り替えていく。そのとき一瞬、懐かしい匂いが鼻をかすめた。
突如、真後ろから声がした。それが誰かなんて、振り返らなくてもわかる。一瞬動きが止まったものの、僕はわざと忙しそうにして言った。
素っ気なく伝えているのに、西畑先輩は離れていく気配がない。このままずっとそこにいられたらどうしよう…なんて考えながら、僕は気にしてないフリをしてポスターを貼り替えていく。
静かな廊下にはポスターの紙が擦れる音と、先輩と僕の小さな息遣いだけが聞こえる。
お願いだから早く遠くに行って。
また感情が溢れてしまいそうになるから。
静かな廊下に響く西畑先輩の震えた声に、思わず動きが止まって、手にしていたポスターが床に落ちる。
ずっと前から欲しかった言葉。僕も先輩に伝えたかった言葉。ゆっくり振り向くと、目を赤くした西畑先輩がおった。
久々に聞く、西畑先輩の優しくて甘い声。その答えは、ベッドの引き出しの奥の小さな箱に封印してたのに、いつの間にか口をついて出てきてしまう。
そう伝えた瞬間、西畑先輩に強く抱き締められる。僕も先輩も泣きすぎて呼吸が乱れてるし、制服が涙で冷たくなってくる。でも離れたくなくて、僕はぎゅっと先輩を抱きしめ返した。
久しぶりの先輩の匂いは、香水なんかよりもずっと優しくて安心する、大好きな匂いやった。
❤️side
数十分前に付き合うことになって、幸せの絶頂にいるのはどうやら俺だけではないらしい。帰り道、ヘンテコなスキップで跳ねながら流星が聞いてくる。
そう言ってにやにやする流星。微笑ましくて、俺は流星の頭を優しく撫でて続けた。
どれ?って言うけどどれも違う。そんなところもやっぱり可愛くてしょうがない。
恋人繋ぎにした手をぶんぶんと大きく振った流星は、急に思い出したようにまんまるの目で俺を見つめてくる。
流星との記念日なら忘れないんやけど、と心の中で呟いてスマホを開いた。しばらく俺しか動かしていなかった共有カレンダーから7月14日をタップする。
俺の横で嬉しそうに呟く流星を見つめながら、一生大切にすると誓った。そんな俺の視線に気付いたのか、流星は俺を見上げてくる。
俺を見つめるその視線は今までで1番優しかった。
〜僕と先輩の初心な恋物語 第1章 おわり〜
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。