第49話

43. 7月14日
2,080
2023/12/24 03:00
🧡side


2年生になると、さらに時間の流れが早く感じる。あっという間に夏が来て、一学期ももうそろそろ終わりそう。
男子生徒
ごめん、流星。このあと部活のミーティングがあって、掲示委員のポスター貼り変え作業できないんよ。悪いんやけど、流星に頼んでええ?
大西流星
うん、いいよ。僕やっておく
男子生徒
ごめんな、ほんまは一緒にやりたいんやけど…
大西流星
別にええって笑
西畑先輩と会うことがないように、僕は先輩が絶対選ばなさそうな掲示委員を選んだ。今年になって同じクラスになった男の子、僕が掲示委員になった瞬間 掲示委員に立候補するくらい初対面からぐいぐいくるし、勝手に名前で呼んでくるしちょっと苦手。そんな子と2人きりでポスターの貼り替え作業なんて地獄みたいやし、1人で黙々と作業できる方が僕にとってはラッキー。


放課後になって、僕は決められたエリアのポスターを夏のものに変えていく。熱中症対策や水分補給を促すポスター、あとは地域の夏祭りのポスターとか。
大西流星
夏祭り、一緒に行こって言ってたのに…
西畑先輩のこと、実は全然忘れられてへん。いや、頭に浮かべてしまう頻度は確実に減った。やけど気を抜くとすぐ思い出して、その都度落ち込んでしまう。

忘れられるようにしないと、と意気込んで、黙々とポスターを貼り替えていく。そのとき一瞬、懐かしい匂いが鼻をかすめた。
流星、今日一緒に帰りたい
突如、真後ろから声がした。それが誰かなんて、振り返らなくてもわかる。一瞬動きが止まったものの、僕はわざと忙しそうにして言った。
大西流星
すみません、僕は一緒に帰りたくないです
西畑大吾
話したいことある。
大西流星
今度にしてください。
素っ気なく伝えているのに、西畑先輩は離れていく気配がない。このままずっとそこにいられたらどうしよう…なんて考えながら、僕は気にしてないフリをしてポスターを貼り替えていく。

静かな廊下にはポスターの紙が擦れる音と、先輩と僕の小さな息遣いだけが聞こえる。


お願いだから早く遠くに行って。

また感情が溢れてしまいそうになるから。















西畑大吾
好き。
静かな廊下に響く西畑先輩の震えた声に、思わず動きが止まって、手にしていたポスターが床に落ちる。
西畑大吾
流星がずっと好き。今までも、これからも、ずっと流星のことしか見えへん。
お願い…こっち向いてくれへん?
ずっと前から欲しかった言葉。僕も先輩に伝えたかった言葉。ゆっくり振り向くと、目を赤くした西畑先輩がおった。
大西流星
ずるいよ…やっと、やっと忘れられそうって…忘れようって意気込んでたのに。勝手にキスしてくるし、思わせぶりなこと沢山するし、訳分からんタイミングで突き放すくせに。僕だって…ほんとのこと言いたくなるやん…
西畑大吾
言って。俺のこと、どう思ってくれてるん?
久々に聞く、西畑先輩の優しくて甘い声。その答えは、ベッドの引き出しの奥の小さな箱に封印してたのに、いつの間にか口をついて出てきてしまう。
大西流星
ずっと前から、西畑先輩のことが大好きです。
そう伝えた瞬間、西畑先輩に強く抱き締められる。僕も先輩も泣きすぎて呼吸が乱れてるし、制服が涙で冷たくなってくる。でも離れたくなくて、僕はぎゅっと先輩を抱きしめ返した。
大西流星
遅いよ……先輩のあほ。
西畑大吾
うん。俺がとんでもなくあほやった。悲しませてごめん。
大西流星
もう離さないって約束してください
西畑大吾
もう一生離さない、ずっとそばにいるから
久しぶりの先輩の匂いは、香水なんかよりもずっと優しくて安心する、大好きな匂いやった。
❤️side
大西流星
ねぇ、いつ僕のこと好きになってくれたんですか?
数十分前に付き合うことになって、幸せの絶頂にいるのはどうやら俺だけではないらしい。帰り道、ヘンテコなスキップで跳ねながら流星が聞いてくる。
西畑大吾
きっと早い段階で好きになってたんやけど、はっきり自覚したのはクリスマスの買い物行ったときやよ
大西流星
おぉ!やっぱり?
そう言ってにやにやする流星。微笑ましくて、俺は流星の頭を優しく撫でて続けた。
西畑大吾
やっぱりって?
大西流星
実は、大橋くんと謙杜は僕の気持ち知ってたから、お買い物デートで西畑先輩をオトす方法を教わってたんです。見事に刺さったってことかぁ〜
西畑大吾
そうなん?笑
例えば?
大西流星
会った瞬間上目遣いで首傾げてみるとか、コスメ選んでもらうとか、帰り道キスしてみるとか。
どれ?って言うけどどれも違う。そんなところもやっぱり可愛くてしょうがない。
西畑大吾
お揃いのマグカップ買ったとき、俺が持とうか?って言ったら、僕持ちたい!って言ってたやろ?あそこで好きって気付いてん。
大西流星
そんなとこで?レクチャー関係ないやん
西畑大吾
どうやら俺は、素の流星が大好きらしいで
大西流星
ふふ、先輩の甘々久しぶりやから恥ずかしい
恋人繋ぎにした手をぶんぶんと大きく振った流星は、急に思い出したようにまんまるの目で俺を見つめてくる。
大西流星
記念日忘れへんようにカレンダーに書いておいてください!西畑先輩、意外と忘れそうやから!
西畑大吾
わかったよ笑
流星との記念日なら忘れないんやけど、と心の中で呟いてスマホを開いた。しばらく俺しか動かしていなかった共有カレンダーから7月14日をタップする。
西畑大吾
'お付き合い記念日'っと…
大西流星
ふふ、先輩と僕だけの記念日できちゃった
俺の横で嬉しそうに呟く流星を見つめながら、一生大切にすると誓った。そんな俺の視線に気付いたのか、流星は俺を見上げてくる。


俺を見つめるその視線は今までで1番優しかった。






〜僕と先輩の初心な恋物語 第1章 おわり〜

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