「おーいっ、あとダンボール!
手伝ってー」
そろそろ搬入開始から1時間半くらいたった頃。
理事長がトラックの荷台からダンボールをおろしながら言った。
今日のプチ引越しは業者の人には頼まないでトラックを借りて自分たちで。
理事長がトラック運転してるのって、なんか新鮮…。
「あなたー、これ俺の部屋運んどいて。」
「あ、うんっ」
勇我くんにダンボールを渡される。
「っぅえ!?」
思っていたより重くて、危うく落としそうになっちゃった!
な、何入ってんのこれ…
勇我くんがひょいって持ち上げてたから軽いのかと思った…
「重っ!」
これ、階段登れるのかな…?
「ふっ…」
!?
い…今…
勇我くんが笑った…?
しかも、嘲笑うような…
唖然として勇我くんを見ると、ニコッと笑ってくれる。
も、もしかして持ってくの手伝っ…
「早く持ってけ。」
「え?」
笑顔のまま言うから…なんか…
怖いよ?
えーっと…ん?
ゆ、勇我くん…?
「なに突っ立ってんの、早く。」
冷たい視線を私に向けてそう言った勇我くんは別のダンボールを持って家の中に入っていった。
な…に…?
…だれ、今の。
本当に勇我くん…?
いつもみたいな…優しくて完璧な勇我くんはどこへ…。
ブンブンっと私は顔を横に振る。
いやいやっ…。
きっと私が鈍臭いからちょっとイラッとしただけだよ、うん。
誰にだってそーゆーことあるよね…。
「うっ…おもぉ…」
そう自分に言い聞かせて、私はダンボールを抱えながら家に入った。
てか…
こんな重い荷物持たせるなんて、勇我くん、絶対私のこと女子だと思ってない!!!
階段辛いし…
「んよっこいしょ…っ」
はぁはぁと息を切らせながらようやく勇我くんと怜我くんの部屋にたどり着いた。
「遅せぇ。」
勇我くんがの声が後から聞こえ振り返る。
「ご、ごめん…」
え、え…
ほんとにほんとに勇我くん…?
別人みたいだよ?
「あなたがひとつ運んでるあいだにオレは何往復したことか…」
はぁ、とわざとらしくため息をつく勇我くん。
なにそれーっ…!
感じ悪っ!
「じょ、女子に重いものもたすからでしょーがっ!!」
優しい人だと思ってたのにー!
こんな意地悪な人だったなんて!!
「おーいっ、あなた、勇我!
一応全部運び終わったから一旦休憩するぞーっ。
降りてこーい!」
下の階で私たちを呼ぶ理事長の声。
「はーいっ!」
私は勇我くんにべーっと舌を見せてから下に降りた。
あんなヤツ〜っ…
好きだと思ったのは勘違いだっ!!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。