第50話

三幸の推しカプ観察日記:四頁
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2025/07/07 03:31 更新
あなたの名字様は、よく差し入れをくださいます。

その度私はこの尊い食品を腐食させずに保存する方法を試すべきか、思い出として体内に刻みつけるべきか、大きな決断を迫られます。

二ヶ月前、可愛らしいクッキーを

「これ日持ちするから好きな時食べてね」

と渡されました。

そのクッキー様とは、明日がとうとう別れのときです。


或る日私があなたの名字様の執務室に赴いた際、あなたの名字様は何やら二つの箱をじっと見つめ何か熟考していらっしゃいました。

そして私の顔を見るなり

「これどっちが欲しい?」

と仰い、小さいながら重厚な二つの箱をお見せくださいました。

そこにはパリより取り寄せた限定のピエール⚪︎ルメのチョコレイトと、日本で作られたきび砂糖を使った珍しい和洋高級チョコがありました。

そんな、私めの為に其の様に悩んでいただけるなんて畏れ多いことでとても戴くなんてことは出来な「こちらが好みです」

私はきび砂糖チョコを選びました。

するとあなたの名字様は顔を輝かせて「やっぱり?」とその和紙に包まれたチョコを見て、むふーっと笑っていらっしゃいます。

「じゃ!行ってくる!」

あなたの名字様はそのチョコを持ち、部屋を颯爽と出て行きます。

私は目が点となり、己の勘違いを強く恥じました。

とても恥じました。

「三幸ーっ…えっ何!?心臓麻痺!?」

ふと戻ってきたあなたの名字様が、胸を強く押さえうずくまる私を心配してくださったので、私は弱々しく唇を噛み締めながら大丈夫ですと答えます。

「デ⚪︎ノートに名前書かれたのかと思ったよ」

「何ですかその物騒なノートは」

あなたの名字様はそれ以上その話題には触れず、トコトコとデスクに向かいもう一つの箱を手に取りました。

「はいこれあげるぅ」

⚪︎エールエルメがこの手の中に!!

あなたの名字様!!!

感涙の私をケラケラ笑いながら、あなたの名字様はふと思いついたように人差し指を立てました。

「三幸もついてきなよ、面白いものが見られるからさ」

私は首を傾げながらも、ご機嫌なあなたの名字様に着いて行くことにいたしました。


______________



「あ“あ“クッソ糞太宰クソがっ…!」

部下達は中原の不機嫌を遠巻きに見ていた。

あまりに黒いオーラを纏う中原に、確認してもらう書類すら渡せぬ始末である。

その時

「なぁぁかはらさーん!」

「あ“あ”っ…?」

「中原さーん!チューヤ・ナカハラナカハラチューヤサーン!!」

「五月蝿ェよ!!」

黒い硝子を砕き間抜けな声で現れたあなたの名字に、中原は青筋立てて答えた。

あなたの名字は動じずにその場でスキップをしている。

「太宰治にタライを落とされた挙句そのまま落とし穴ギミックに引っ掛けられてどこから連れてきたのか十分の間結界を張れる異能者によって外にも出られず太宰から低俗な言葉を浴びさせられたそうですね!本人は五分で飽きたみたいですけど!あはははは!」

さらに煽るあなたの名字に部下達は、暫く青空は仰げないと絶望した。

言わずもがな中原は表情すら読めないほどに顔が黒く染まっている。

「手前覚悟は出来て」

あなたの名字は言葉を遮り揚々とチョコを差し出す。

胸ぐらを掴もうとした中原は、伸ばした手をピタリととめた。

「…ンだこれ、ご機嫌取りかよ」

細やかながら黒い顔は黒寄りのグレーになっている。

「はいっ!」

濁りの一切ない表情は大変気持ちが良いです。

「今入ってる企業の同僚OLさんが教えてくれました!甘さ控えめなので中原さんのお口に合うかと思い!いやぁ、上司を思いやる私の心が愛おしい!」

中原は一通り聞いてそろりと箱を受け取る。

暫く箱を見つめると、ふっと笑ってあなたの名字を見た。

「ったく馬鹿が、調子乗んな」

あなたの名字の頭に小さな小突きが落とされた。

部下達は羨望の眼差しであなたの名字を見た。

このように上司の機嫌が取れるのは、あなたの名字あなたの下の名前だけなのだ。

我々が真似したとて効力は無い。

しかし次の一言でそれは台無しになる。

「単純ですね!」

「あ“?」

またもや中原は眉を顰めた。

口角をピクつかせる様子を見て、部下達は失望の眼差しであなたの名字を見た。

しかしあなたの名字は、そんな中原に自ら顔を寄せ耳元で囁く。

「太宰治に同じ仕打ちを仕込んできました。此方は、太宰治が過去関わった女性達からの罵詈雑言を録音したスピーカーを設置したので、彼は十分の間みっちり絶望すると思いますよ」

中原は目を目開いた後、吹き出して堪えられず笑い出した。

全く内容が聞き取れない部下達は呆気にとられたものですよ。

「よくやったじゃねェか!それに免じて今からの仕置きは一時間にしてやる」

「えっ」

中原はあなたの名字の肩を掴みどこかへ連行していく。

何が起こったのか見当もつかないまま、部下達は互いに顔を見合わせて、チラチラとその場を去る。

少し離れた位置から観察していた三幸は思った。

一体何を見せられたんだろう。

顎を摩り思考を巡らせる。

そして気づく。

「助けに来い、と言う事ですね…!あなたの名字様今すぐ参ります!」

仕置きを見越して私を連れて行くだなんて…なんて聡明なお方!痺れる!と思いながら三幸は廊下をかけていく。

あなたの名字の思惑通り、中原のスパルタ戦闘実習に飛び込んだ三幸によりその場は混沌と化した。

しかしその思惑が、あなたの名字にとってただ仕置きを免れる為だったのかどうかは、定かでは無い。




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