一先ず、マフィアから身を隠す為には
ヨコハマから少しでも離れた方が善い。
そう思って私は疾歩きで街中を抜けようとした。
その時、偶々通りかかったお店の展示窓に置いてある受像機の画面に、見覚えのある人物が映っていた。
“見覚えのある人物”と言っても、正体は私だった。
「速報です。ポートマフィア幹部補佐と思われる人物、癒月あなたが緊急指名手配されました。癒月あなたは数々の犯罪に手を染めており____」
私は思わず受像機に近付き、自分が
見ているものは幻覚ではないのかと何度も疑った。
確かに、受像機で流れる情報は全て事実だった。
だけど、いくらなんでも
証拠が一度に出回りすぎている。
誰かに嵌められたか否かは判らない。
だけれど____
「尚、捜査には軍警の特殊部隊
『猟犬』が担当すると決まっており____」
『猟犬』
その単語を聞いた途端、
私の躰の体温が奪われていく感覚がした。
猟犬とは軍警最強の特殊部隊のこと。
書物や資料室でもその名を見たことがあった。
私たちのなかでは、“彼らに目を
つけられてはいけない”なんて暗黙の掟もある。
指名手配されてしまった以上、
私は安易な行動も、生活も難しいだろう。
逮捕だってされかねない。
況してや相手は猟犬なのだから。
そして私はこれでもポートマフィア五大幹部の補佐。
私が軍警に捕まれば、
マフィアの秘密情報が漏らす恐れがある。
だから、その前に私を殺し
闇に葬るという方法を取ったのだろう。
本当に、首領らしい合理的な判断だ。
詰まる所、私に逃げ場はなかった。
猟犬に捕まれば尋問や拷問を受け、
二度と外の世界には出られない。
ポートマフィアに見つかれば、
即殺されてしまう。
あぁ、本当にどうして
こんなことになってしまったんだろう。
過ぎたことを嘆いたって意味がないと
判っているのに私の頭はその思考を止めない。
きっと私に救いは存在しない。
……なら。せめてマフィアの
裏切り者として殺されるのではなく、
自決を選んで最期までマフィアとして在りたい。
私の頭にはそれが名案として
くっきりと浮かび上がっていた。
だけれど、私にも一つ……
一つだけ、心残りがあった。
携帯端末を取り出し、時間が止まったかのように
ある人の電話番号を見つめていた。
その画面に表示された連絡先は、
私がずっと密かに想いを寄せていた人___
江戸川乱歩さんの連絡先が映っていた。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!