あなたの下の名前side
次の日
Valkyrie レッスン室
Valkyrieのレッスンを始めて2日目、数時間が経過していた。
初日であった昨日もかなりの時間練習をしていたというのに、今日も終わりが見えない進行度だった。
…2人が揃ったパフォーマンスは、圧巻だった。
指先の動き、目線、息遣い。
全てが、ほぼ狂いなく揃っている。
斎宮さんは暫くブランクがあったというのに、この力量だ。
噂で聞いた通り、流石五奇人の1人だと言えよう。
その上、こんなにも自分に厳しいのだ。
みかくんから話を聞いていた時は、みかくんに対して少々厳しすぎないだろうかと怒りが沸くこともあった。
しかし、彼の厳しさは、自身への厳しさ故に他者にも降りかかるものであって、等しく与えられるものだったのだろうと、彼の練習への姿勢を見て感じた。
正直、私の目から見てもほんの少しで、よく目を凝らしていないと分からないレベルのズレ。
その程度のズレ、観客は気にしてもいない…いや、気付きすらしないだろう。
他のユニットであれば当たり前にあるそれを、彼は許さない。
暫く閉じこもっていた彼だ。
外界に戻ってきた今、多少なりとも前向きな気持ちに戻っていると考えれど、まだ不安定なのだろう。当たり前だ。
かつての帝王が、こんな弱気な姿を見せることを、誰が想定していただろう。
それはきっと、みかくんにも受け止め難いことだ。
でも__
きっと、かつての帝王に言うには図々しくて。
それでも、今の彼の小さな背中に届く言葉を、精一杯選んだ。
少しは、私とみかくんの思いが届いたのだろうか。
みかくんは、名前を呼びながら私たちに飛びつき、一気に3人の物理的な距離が縮まる。
大きく舌打ちする彼の表情は、とても嫌そうには見えなくて。
頬を少し赤らめて、ほんの少し口元が緩んでいた__ような気がしていただけかもしれないが。
そんな彼の表情を見て、みかくんと目を合わせて笑った。
斎宮さんの技術に関しては、私から教えられることは正直ほぼ無かった。
その分、彼の芸術の形を、彼の考え方を、少しずつ変えていければと思った。
彼の芸術の芯は変えずに、もう少し柔軟に。
みかくんとの調和を大切に。彼の厳正なパフォーマンスに少し柔らかさを加えたい。
過去の敗北は無駄ではなかったのだと。むしろ糧になるのだと、斎宮さんにも分かって欲しい。
今までよりも成長したValkyrieを目指して。
練習を重ねるごとに少しずつ2人との仲も深まっていく。
2人と過ごす時間は、私にとってかけがえのない大切な時間に変わっていった。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!