第37話

芸術家との邂逅
46
2026/05/05 07:28 更新
あなたの下の名前side
次の日

Valkyrie レッスン室
あなた
(…ふう。少し、緊張するな。)

私はみかくんと約束した時間に、レッスン室に来ていた。

扉の前で歩みを止め、ノックする前に、呼吸を整える。
あなた
(…斎宮宗さん。いったいどんな人なんだろう。)

今日は、斎宮さんと会う初めての日だ。

みかくんからいつも話は聞いていたものの、斎宮さんが兎に角すごい人で、気難しい一面もあるという、どこかぼんやりとした印象しか持てていなかった。


緊張と少しの期待をしながら、目の前の扉をノックする。


__コンコン。

影片みか
影片みか
あなたの下の名前ちゃん?入ってええよ~。

中からみかくんの声が聞こえ、扉を開いた。

影片みか
影片みか
あなたの下の名前ちゃん、おはようさん♪
斎宮宗
斎宮宗

みかくんの隣には、確かに‘‘お師さん‘‘が居て。

その並びを目にした初めての瞬間。思わず目頭がじんわりと熱を帯びた。

影片みか
影片みか
紹介するで♪この人が、ずっと話してたおれのお師さん。
あなた
初めまして。私、今年の春からプロデューサーとして入学してきました。あなたと言います。よろしくお願いします。
影片みか
影片みか
お師さん、この子がずっと話してたあなたの下の名前ちゃんやで。
斎宮宗
斎宮宗
あなた
…返事が無い。

彼は、なんて言ってくれるのだろう。

かなり緊張していたせいか、ほんの少しの沈黙がやけに長く感じられた。



__そんな沈黙を破るように、少し高い声が響いた。

斎宮宗
斎宮宗
『こんにちはっ』
あなた
…?

一瞬、どこから声がしたのか分からなかった。

だがすぐに、彼の左手にいるお人形がこちらを向き、動いていることに気づく。

斎宮宗
斎宮宗
『あたし、宗くんにマドモアゼルって呼ばれてるお人形!』
斎宮宗
斎宮宗
『宗くんは照れ屋さんだから、よく知らない人とは、あたしが代理で喋ることになってるの♪』
斎宮宗
斎宮宗
『みかちゃんから、あなたの話はよく聞いていたわっ』
あなた
(…腹話、術………?)

少し反応に困っていた私に気づいたのか、咄嗟にみかくんが間に入ってくれた。

影片みか
影片みか
んあ~、お師さん、マド姉ェが大事なお人形さんなんよ。仲良くしたってな?
あなた
は、い…。
斎宮宗
斎宮宗
『よろしくねっ、仲良くしましょ♪』

人形自体はかなり年季が入っているように見えるが、彼女が着ているお洋服はまだ仕立て上げられたばかりのようだった。

フリフリと揺れるスカートに、気さくに話しかけてくれる彼女のおかげで、少し緊張が解けた。


表情は変わらないのに、彼女が本当に生きているような感覚になる。

…むしろ、何も話さない斎宮さんより人間らしさを感じる。

彼女の端正な顔立ちとくるりとした瞳に吸い込まれてしまって。
あなた
…かわいい。
斎宮宗
斎宮宗
『ありがとうっ、嬉しいっ♪』
斎宮宗
斎宮宗
カカカッ!マドモアゼルがかわいいのは当然だろう。多少は見る目があるようだね!
あなた
……!?

むしろ、突如聞こえた斎宮さんの声の方が、今日一番の驚きだった。

斎宮宗
斎宮宗
何故そんな化け物でも見たかのような反応をするっ!?失礼ではないかねっ!?
影片みか
影片みか
お師さんが急に大きな声出すから、あなたの下の名前ちゃん驚いてもうてるやん。
斎宮宗
斎宮宗
んなっ……!
影片みか
影片みか
お師さんこんな感じやけど、おれがずっとあなたの下の名前ちゃんのこと話してたから、これでも会うの楽しみにしてたと思うで…♪
あなた
…!私も、斎宮さんに会うの、楽しみにしていました。
斎宮宗
斎宮宗
誰がこんな小娘に会うのを楽しみにするというのかねっ…!?勘違いも甚だしいよっ!
あなた
(…なんだ。勘違いか。)

私が少し落ち込んだことが伝わったのか、彼は少し慌てている様子になる。

斎宮宗
斎宮宗
だ、だが、その…僕の人形である影片の面倒を見てくれていたことは感謝していなくもない。
斎宮宗
斎宮宗
僕が動けない間、影片のプロデュースをしてくれていたと聞いた。
斎宮宗
斎宮宗
君のような小娘の腕前に、正直期待してはいないが…
斎宮宗
斎宮宗
影片が、1人で仕事の話を進められるわけがないからね。君の力も多少なりともあるのだろう?
斎宮宗
斎宮宗
『宗くん、みかちゃんからの話を聞いて、かなりあなたの下の名前ちゃんに興味を持っているみたいよ♪』
斎宮宗
斎宮宗
『宗くんがこんなに素直に誰かを認めてるなんて、かなり珍しいもの♪』
斎宮宗
斎宮宗
『私もずっとあなたの下の名前ちゃんに会ってみたかったから、話せて嬉しいわっ♪』
あなた
…!本当?嬉しいです。ありがとうマドモアゼルさん。
斎宮宗
斎宮宗
影片みか
影片みか
お師さん、あなたの下の名前ちゃんとマド姉ェが仲良くしてて満更でもない顔してるわ…
影片みか
影片みか
あなたの下の名前ちゃんなら、お師さんとも仲良くできると思ってたんよ。嬉しいわぁ♪
影片みか
影片みか
お師さん、こんな感じの人やけど、2週間後のお仕事までプロデュースよろしくなぁ。
あなた
…はいっ!斎宮さんとも、もっとお話してみたいです。
斎宮宗
斎宮宗
………ふんっ
斎宮宗
斎宮宗
『これは「いいよ」って意味よ♪』
あなた
えへへ、分かった!
斎宮宗
斎宮宗
別に君を認めたわけではないのだよッ!
あなた
ふふ、分かりました。認めてもらえるように、全力を尽くします。
斎宮宗
斎宮宗
…まあ、せいぜい頑張りたまえ。

少し言葉を交わしただけで、斎宮さんの個性的な性格を、ほんの少しだけ掴めた気がした。

みかくんがこれまで私のことを話してくれていたからこそ、この気難しい斎宮さんが、私に興味を持ち、レッスンを受けようと前向きに考えてくれているのだろう。


それだけで十分だ。

十分なチャンスを、貰っている。

あなた
…では、今日のレッスンを始めましょう。



彼らが全力を尽くせるように。




私も全力を尽くす。

それだけだ。

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