朝礼まで後3分。手紙の差出人について議論しとって気づかんかったけど、当事者であるあなたの下の名前が姿を消しとった。
あからさまに顔をしかめたからか、北が不思議そうな顔を浮かべる。なんか問題あるん?と、疑問はそのまま口にした。北らしい。
北に言うて大丈夫なことなんやろうか、これ。
あなたの下の名前は下級生、特に二年の女子から角名のことで目の敵にされとるから一人で行くのは危険…やなんて、言わん方がええよなぁ…。
ごめん、なんでもないわ、と北に言うと、そうか、とあっさり引き下がってくれた。こういうとこええよなぁ。北って。
内心で北に拝みつつ、あなたの下の名前を今からでも追いかけた方がええのか、それともこのまま待った方がええのか考える。
危険は危険やけど、あなたの下の名前のことを1年からずっと見てきて、過保護にしすぎたんもあるかもしれんなぁと思うた。
あなたの下の名前をあらゆる危険から守ってきた。守りたくなる小動物みたいな子で、危なっかしいから放っておけんくて。
でもそろそろ一人立ちも考えなあかんよな。うちはいつまでもあなたの下の名前の側におるわけとちゃうし…
それに角名んとこに行ったって言うんなら大体のことは大丈夫な気もする。だってあの角名やもんな。
いつも何かとあなたの下の名前に絡んできて、毎回毎回何かの布石を撒いて帰っていくし用意が周到やし。
昨日のことやってそうや。昨日の放課後うちとあなたの下の名前が出かけるのを事前に知っていた上でわざわざあなたの下の名前に『放課後空いてる?』と聞いた。
当然あなたの下の名前は断るんやけど、そしたら角名があからさまに落ち込んだ素振りを見せる。あなたの下の名前は優しいから、わざとだとわかってても代替案を出す。
何が怖いって、初めっからぜーんぶ角名の思惑通りなんよな。最初にわざとその日の放課後に誘ったのはあなたの下の名前の代替案待ちやった。
幼馴染みゆえ、というべきなのか、好きすぎるあまりというべきなのか…わからんけど、一体どこまで計算しとるのか底が計れんから怖い。
うちが角名を諦めた理由はまさにこれで、角名があまりにもあなたの下の名前のことを好き…いや、溺愛しとったから。
当の本人は全く気づいとらんし、というか角名もばれへんようにはしとるみたいやけど…あんなに独占欲剥き出しで、よぉばれへんなとつくづく思う。
そんな角名やから、あなたの下の名前が二年の女に敵意を向けられたとしても何とかするやろうしなんなら既に対策済みと言われてもなんら違和感はない。
なんとなく気になってしもうた。バレー部の主将的に角名の評価はどないなってんねやろ。
顎に手を置いて考える素振りを見せた後、せやなあ、と頭につけて話し出す。
後ろからいきなりぬっと巨体が現れてびっくりした。190越えがいきなり出てきたらそらびびるやろ。
びくっと肩を揺らしたうちに、ああすまん、と軽い謝罪をされてええよと返し、角名が真面目だ、という大変興味深い話の続きを促した。
ちゃんと器用にやりよるから、成長速度が目まぐるしいし見とって飽きんな
そえ言ってはははと笑う大耳に、北もせやなあと穏やかに笑った。なんやこの光景、老夫婦が思い出話に花咲かせとるみたいやな。
ふーんとうちも興味深く聞いとったら、北が笑うのをやめて、突然あ、と思い出したように言った。
なんなんやろうな、 さぁ?
そんなバレー部の会話が繰り広げられとった横で、うちは少し心当たりがあった。
最近あなたの下の名前の属する美術部の後輩男子部員があなたの下の名前に熱をあげているとかなんとかで、頻繁に話しかけているという話。
その現場を見かけたんとちゃうかなぁ…とは思うたものの、2人には言わんことにした。この2人は気づいとらんっぽいし、言わん方がええやろ、一応。
人殺しそうな目、かぁ。ほんまに殺さんとええけど。
割とがちでそんなことを思いながら、朝礼まで後1分を示した時計を見上げた。
🌟80⤴︎︎ありがとうございます!












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。