放課後。私たちは約束通り落ち合って一緒に学校を出た。倫太郎くんにつられてきた先はアンティーク調で纏められた小洒落た喫茶店。
店内にはリラックスできるような穏やかなBGMが流れていて、人と来ていなければ寝てしまいそうなほど安心感のある場所だ。
しかもこのお店は大通りにあるわけじゃなく、少しだけ奥に入り込まないと見つけられない。なのに倫太郎くんは一体どこで知るのだろう。
ネットだよ、と言っていたけど、そこは流石と言うべきか。
倫太郎くんが頼んだホットコーヒーも、私が頼んだホットココアもとっくに空で、それにも関わらず話し続けていた。
如何せん、私たち2人でゆっくり話せる時間というのは意外となくて、常に誰かしらが居るか時間が無い。倫太郎くんも積もりに積もった話があるみたいで、口が止まらない。
ずっと楽しそうに口角を上げているので、本当に楽しいんだなって思う。
ちなみに今日の部活は私も倫太郎くんもオフである。決してサボりなどはしていない。
そもそも私が属する美術部は活動が週に2回、しかも自分が好きな曜日で来たら良いというあまりにも自由な部活なので休みとかは正直関係ない。
倫太郎くんはと言うと、稲荷崎はバレーの強豪なだけあって基本休みはない。けどたまに休みになるらしい。
貴重な休みを私と過ごしていいのか尋ねたことがあるけれど、その時は笑って「貴重な休みだからだよ」と言われた。
その言葉は要するに、私と居たいって意味だと思ってとても嬉しくなったのをはっきり記憶している。
朝のアレ、とは恐らく、私の机の上に置いてあった大きなおむすびと手紙のことだろうと一発でわかった。それぐらい印象的な出来事だった。
多分、本気で一生忘れないと思う。
ちなみにあのおむすびは、一応私と蓮月ちゃんに贈られたもの…だったので、2人でお昼にわけた。
それでも大きくて、持参したお弁当を食べるのも結構苦しかった。結構無理をして食べたのに、放課後になるとまたお腹がすいている。人間とは不思議だ。
『こんなんで許されるわけない』…と、北くんは今朝据わりきった目で言っていた。侑くんにはこっそり両手を合わせておいた。
倫太郎くんは目を細め、大変愉快そうな顔で携帯をつつき出した。少しして、「見て」とこちらに提示してきた携帯の画面には、2年の空き教室で正座させられている侑くんと、その前で仁王立ちしている北くんが写っていた。
それより手前に柱のようなものが写っているし若干ブレているので、多分隠し撮りしているし笑いをこらえきれていない。
銀、と呼ばれたその人の名前は銀島くん。侑くんと同じクラスで同じバレー部。倫太郎くんの話によく出てくる名前の一つだ。
バレー部には珍しく、とても純粋で良い子…という印象。倫太郎くんが直接そう言った訳ではないけれど、彼の悪い話は聞いたことがない。
だから私は彼のことは嫌いじゃない。話したことは無いけれど。
うん、バレた。対照的なその返事に、思わず笑いが出た。北くんに苦手意識を持つ倫太郎くんがそれでもニコニコしているのは、多分それ以上に侑くんが怒られたことが愉快なんだろう。
目の前の倫太郎くんは携帯の画面を再び見て、更に目を細めおっほほ、といつもの独特な笑い声を上げた。思い出し笑いをする程面白かったらしい。
その様子が面白くて、私もつられて笑ってしまった。
「追加で何か頼む?」と、笑ったまま提案されて、確かに少し小腹がすいてるなと、自分の空腹を思い出した。
頼む、と私も笑ったまま返して、2人で1つのメニュー表を眺めた。透明なスリーブに入れられた紙に書かれたメニューはどれも美味しそうで、お腹がさらに空くようだ。
パンケーキのような少し小腹を満たす程度のものを食べようと思っていたのに、見れば見るだけお腹がすいていく。
結局2人揃ってナポリタンを注文し、倫太郎くんが2人分のナポリタンが机上にある様子を撮影して、その場でインスタのストーリーに上げたのを確認してから食べだした。
麺とケチャップの絶妙な絡み具合と、グリーンピースやピーマン、ソーセージと言ったナポリタンならではの具が美味しい。
目の前のお皿からグリーンピースが送り込まれているように見えるのは気のせいかな。
要は『食べずに済むなら食べない』ということだろう。倫太郎くんはそういう食べ物が多い気がする。主に野菜。
でも幼い頃はもっと好き嫌いが多かったと思うし、部活をするようになって好き嫌いも少しは解消されたのかもしれない。
…私といる時は昔に戻っちゃうみたいだけど。
1個は食べてね、とグリーンピースを一つだけ相手のお皿に返して、後は仕方なく私が食べることにした。
違うよ、苦手なだけだよ、嫌いじゃないよ…と謎の意地を張っているけれど、多分これはかなり嫌い。でもそんな話聞いたことないんだけどなぁ
してよ、しないよ、なんで?、恥ずかしいじゃん、大丈夫人少ないから、そういう問題じゃなくて…
そんな押し問答を繰り返した。まぁ意味が無いことはわかっている。なぜなら私は押しに弱い。
結局押し負けた私は、フォークにグリーンピースを刺して待機している。ほんの少しの抵抗でそんなことを言ってみたけれど、彼には何も響かないだろう。
今も、「その度にあなたの下の名前が甘やかしてくれるからじゃない?」と他人事のようにあっけらかんと言ってくる。私が甘いのは私が1番よくわかっているつもりだ。
何を言っても無駄だと判断した私は、グリーンピースの刺さったフォークを倫太郎くんに差し出す。倫太郎くんは嫌いな割に特に躊躇することも無く、パクリと食べた。
力なく返せば、倫太郎くんはケラケラ笑った。
ひいいい長くなってごめんなさい🤦🏻♀️🤦🏻♀️🤦🏻♀️
いつもより1200文字多い……🙄🙄
2つにわけてもちょうど良かった……()
うおお、🌟100⤴︎︎…!
ありがとうございます!!!












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!