今日は朝から気分がええ。
侑のテンションは昨日の昼休みから有り得んぐらい低かったけど、俺はすごく調子がええ。
なんでかは分からん。でも、朝練の調子も良ければ侑をいなすのも、今日はいつにも増して鮮やかな気がする。
そういう日ってたまにあるやんか。今日はなんもかんも上手く行きそう…そんな風に思える日が。いつにも増してメシは美味いし、今食うとる焼きそばパンも心做しかいつもよりソースが濃い気がする。
ただ…
そういう日は、俺以外もそうな事が多いような気もする。
俺の座っている席の、目の前の椅子。背もたれを前にして跨って座る男、角名を見とると尚のこと思う。
明らかに" 聞かれ待ち "。なんかええ事あったん?と、聞いてほしそうな顔。いつもはポーカーフェイスで何考えとるのかわからんのに、今はわかりやすいぐらい上機嫌。ここは聞いたら負けやと俺の本能がそう告げる。
何が困るかと言うと、俺はただ俺の席に座っとるだけやのに、勝手に角名が目の前に居座っとること。逃げ道がない。
考えろ、考えるんや、俺。なんとしても逃げたい。こんなご機嫌な角名、かつて見たことあらへん。絶っっっ対面倒臭い。
大丈夫や、今日の俺は調子がええ。きっとすぐ回避する方法も頭に浮かぶはずや。落ち着いて考えれば、きっと…
…なんてことや、まさか自分から来るとは。
ここで俺は思い出した。俺の調子がええ時、他の誰かも調子がええ…。
無意識に力の籠った、焼きそばパンを持っている右手。パンの部分がぐしゃっとなってしまっとる。
俺は諦めて話を聞くことにした。どうせあなたの下の名前とやらとの惚気を聞かされるのはわかっとるけど、さすがに話しかけられて無視はできん。いや、できるけど。
はいはいどうせツーショットとかやろ、知っとる知っとる…
ほぼ見る気ゼロで、強めに握ってしまった焼きそばパンを齧ってから角名が見せてくる携帯の画面を見る。…と、そこに写っとったのはツーショットなんかではなかった。
誰かとのメッセージのやり取り。見るにLINEやない。俺は詳しくないけど、インスタってやつやないか。
だとしたらこれはイチャイチャトークか?はいはいそういうことか、ツーショットよりしょうもないわ…
ほぼ真面目に読む気ゼロで上から下までざっと読んでみる。…と、不可解な文字が目に留まる。
そこに羅列する文字たちは、どれも角名に対する独特な愛情表現。はっきり言って気持ちが悪いし…明らかに、あの『あなたの下の名前』のものではない。
角名の指が下から上に滑り、メッセージはさらに続く。
『なんで返信くれへんの??』『角名くん私の事嫌いなん??嘘やんな??』『私はこんなに好きなんやで』
続けて送られてきているのは、授業中や部活中、昼休み、掃除の時間…色んな時間に盗撮されたと思われる角名の写真たち。
もはやストーカーと変わらないそれに、角名は一言だけ。『きも』と。
こんな意味わからんことしてくる女にそんなん言うたら何されるかわからんのとちゃうやろか…
慣れてるってなんやねん、怖いわ。
身の毛もよだつ気持ち悪さに、そんなツッコミも出てこんくなった。この女もきもいけど、これが送られてきて平然としとるどころか上機嫌なんがきもい。何やねんこいつ。
てかこれを見せられて俺はどないしろっちゅうねん、お前は知りすぎたんやとか言うて俺刺されたりせぇへんよな?
…こいつまさかとは思うけど、隣来とるのにこんな話しとるってことは無いよな。さすがにそれは馬鹿やんな。
少しの嫌な予感と恐怖感に包まれつつ、右隣を見ると…
おるーーーー!!!!!
なんなん!?ほんとなんなん!?角名こいつっ、ほんま…っ!
馬鹿なんか!?筋金入りの馬鹿なんか!?!?ほんま信じられへん……っっ!!
俺はあまりの事態に何も言われんかった。怖いとかやばいとかどないしよとか色々思うことはあるけど、言語化できん。
隣の女子は机に突っ伏しとる。顔は見えんけど、髪の毛を高い位置でくくったヘアスタイルによってうなじに汗が浮かんどるのが見えた。
耳は真っ赤に染まっとるし、肩で息をする様子は見るからに焦りを含んどるものやとは見て取れた。
明らかにその女に向けてそれだけ言って、角名は教室を出てどこかへ行ってしまった。
隣からは鼻をすするような音と、少しの嗚咽が聞こえる。
………いや、どないしろって言うねんこの空気!!!ほんま最悪やあいつ!!!!!
励ますべきなのかそうでないのか、どないしたらええか分からんかったけど、とりあえずさらに握りしめてしまった焼きそばパンを齧った。
やっぱりソースが濃い気がしたのは気のせいやった。…し、むしろ薄くすら感じる。
今日は調子がええ日。俺の調子がええ日は、他の誰かも調子がええ。
それはまた逆も然りで、俺の調子が良くても他の誰かは絶不調なこともある。
今日その『誰か』は…隣のこいつか。
とりあえず隣の席にそっとトロルチョコを乗せといた。

ランクインありがとうございます🥰
そしてそして、🌟100⤴︎︎~~
嬉しい限りでございます🥳🥳
誠にしぇしぇ🙏🏻🙏🏻🙏🏻🙏🏻












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。