前の話
一覧へ
「花時雨、凛と降る薔薇──」
そんな歌が、ふと耳に入った。どことなく聞き覚えのある、繊細で中毒性のある、中性的な声。僕は思わず、歌声の方へ目を向けた。さらさらと揺れる黄色と白のショートヘア、群青色と灰色の澄んだ瞳、右頬と口元、喉元にある、お化けを想像させるようなタトゥー。まさか、そんなわけない。そう自分を納得させようとするが、一目見ただけだとしても見違えるはずがない。僕はこの場所から逃げたくなったが、僕の本能がこの歌に釘付けられて、動けない。
🧐「あ……」
動けないままいると、演奏中のそのひとと目が合った。そして、僕に向かって微笑んだ。今は僕の周りには誰もいないので、十中八九僕に違いないと思う。
逃げ出したいという思いと歌声の引力に、何度逃れようとしても逃れられない。むしろ、歌声と透明で美しい瞳につられている。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。